初回出稿日:2023年7月25日
最終更新日: 2024年6月1日
株式会社 合同会社 合資会社 合名会社 持分会社
所有と経営の分離(株式会社の) 所有と経営の一致(持分会社の)
事業開始にあたり、個人事業ではなく会社設立を選択した場合、次に、どの会社形態にするか決めなくてはなりません。個人事業で開業した事業者が法人成りする場合も同様です。ここでは、会社形態の選択について整理します。
会社法上の4つの会社の比較
会社法上は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4つの会社形態(※1)が選択できますが、実質的には、出資者の責任がその出資額に限定(間接有限責任)される株式会社又は合同会社の二者択一になります(※2)。一応、4つの形態の比較をまとめると以下の通りです。
(※1)合名会社、合資会社、合同会社の3つをまとめて持分会社ともいいます。
(※2)実際、株式会社、合同会社に比べて合名会社、合資会社の設立数は極端に少なくなっています。2022年暦年で見ると、株式会社、合同会社の設立登記数はそれぞれ、92,371件、37,127件であるのに対し、合名会社、合資会社はそれぞれ、20件、30件にすぎません。
株式会社 | 持分会社 | |||
合名会社 | 合資会社 | 合同会社 | ||
概要 | 株主への株式発行により、出資を集める会社。所有(株主)と経営(取締役)が分離した形態。 「所有と経営の分離」 | 社員による持分の出資による会社。 所有(社員)と経営(社員)が一致した形態(出資して社員にならないと経営に参加できない)。 「所有と経営の一致」 | ||
出資者の責任(※3) | 全員が間接有限責任 | 全員が直接無限責任 | 直接無限責任社員と直接有限責任社員が存在 | 全員が間接有限責任 |
出資の対価 | 株式の引受には、金銭又は現物による財産出資による | 持分の出資には、財産出資のほか、労務出資、信用出資といった非財産出資も可 | 無限責任社員は、合名会社と同じ 有限責任社員は、合同会社と同じ | 財産出資のみ可 |
機関 | 最低、株主総会と取締役が必要 | 機関設計は自由(社員総会も必須ではない) | ||
役員の任期 | 最長2年(株式譲渡制限会社は最長10年) | 制限なし | ||
法人役員 | 法人は取締役になれない | 法人も業務執行社員、代表社員になることが可能 | ||
定款 | 設立時に公証人の認証が必要 | 公証人の認証は不要 | ||
計算書類の開示 | 計算書類の公告義務あり | 決算書類の公告義務なし | ||
最低資本金 | 1円 | 0円 | 0円 | 1円 |
最低人数 | 1名(1人株主兼取締役) | 1名 | 2名(無限責任社員と、有限責任社員、各1名) | 1名 |
(※3)直接責任は、会社債務に対して、出資者が直接弁済義務を負うこと。間接責任は、会社に出資する形で弁済すること。無限責任は、出資者の個人財産まで含めて責任を負うこと。有限責任は、出資額を限度として責任を負うこと。合資会社の有限責任社員が直接責任を負うのは、出資の履行が会社設立後でも良く、出資の履行がなされていない場合があるため。
株式会社と合同会社の比較
株式会社も合同会社も会社法に基づく会社であり、個人事業に比べれば、その設立や運営に手間とコストが係りますが、合同会社はその手間とコストが比較的軽い代わりに出資者を広げるのに制約がある形態であり、逆に、株式会社は出資者を広げる柔軟性がある(従って会社を大きくできる、上場もできる)代わりに手間とコスト負担が重い形態と言えます。
従って、将来事業拡大を目指すなら株式会社、事業拡大より低コストで簡単な運営を重視するなら合同会社が選択肢になるでしょう。
以下は、両者の主な手続面での比較と、設立時のコスト比較です。
【株式会社と合同会社:主な手続面での比較】
株式会社 | 合同会社 | |
設立時の手続 | 公証人による定款の認証が必要 設立時取締役等による設立手続の調査が必要 現物出資等に関わる検査役の調査が必要となる場合がある 募集設立の場合、創立総会が必要 | これら手続が不要 |
経常的手続 | 決算公告が必要 株主総会の開催及び議事録の備置が必要 その他機関設計によって追加の手続が必要(※4) 役員の任期は、最長2年(株式譲渡制限会社は最長10年)で、任期が到来すれば変更なくても重任(※5)手続が必要 | これら手続が不要 |
(※4)例えば、取締役会を設置すれば、3ヶ月に一回以上取締役会を開催し、議事録を備えおく必要がある。
(※5)任期満了により退任すると同時に再選されて就任すること。役員に変更がなくても重任の総会決議や登記手続が必要となる。
【株式会社と合同会社:設立費用の目安】
株式会社 | 合同会社 | |
定款印紙代(※6) | 40,000円 | 40,000円 |
定款認証手数料、謄本代(※7) | 52,000円 程 | 0円 |
登録免許税(※8) | 150,000円 〜 | 60,000円 〜 |
その他(証明書代等) | 10,000円 程 | 10,000円 程 |
合 計(※9) | 252,000円 〜 | 110,000円 〜 |
(※6)電子定款にすれば印紙代は節約できますが、その手続はやや複雑です。
(※7)株式会社の定款認証手数料は、資本金の額等が100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、300万円以上は5万円です。ここでは認証手数料5万円+謄本代2,000円(定款1ページあたり250円)程と仮定しています。因みに、定款の認証手数料は、資本金100万円未満の最低区分を3万円から1万5千円へ引き下げる検討がされています(2024年5月時点の情報)。
(※8)資本金額の0.7%(但し、株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)
(※9)このほかに、司法書士等に手続を依頼するとその報酬(10万円ほど)が別途必要になります。
設立後の経常費用に関しては、特に株式会社の場合はその規模(資本金、負債総額、売上高や株主数など)や機関設計などによって大きく変わってきます。例えば、取締役会を設置するなら、原則、監査役を採用する必要があり、資本金が5億円以上(あるいは負債総額が200億円以上)になれば、会計監査人も採用する必要があります。さらに、株主の意向によっては社外取締役などが必要になるケースもあるでしょうし、上場を目指すなら内部監査体制の整備が必要、などなど。このように株式会社は規模等によってその運営コストもピンキリですが、要するに、会社の成長に伴って複雑化する事業環境、組織体系、利害関係の調整などに必要な管理体制とコストを、利益の伸長によってカバーしていくバランスが必要になる訳です。
最後に、株式会社と合同会社の過去の設立数の推移を示しておきます。合同会社は、2006年5月施行の会社法改正によって誕生した比較的新しい会社形態ですが、以来、順調に設立数が伸びてきていることがわかります。上で述べた通り、株式会社と合同会社では設立時の主目的が異なる(成長を重視するか、簡便さを重視するか)わけですが、株式会社の設立数がほぼ横ばいである一方で、合同会社の設立数が増えてきていることから、「(とりあえず)簡便に会社を立ち上げてみる」ニーズをうまく取り込んでいることが見て取れるのではないでしょうか。
以上