登記情報提供サービス 登記・供託オンライン申請システム
本記事では、事業者が利用できる主な商業登記関係のオンラインサービスについて解説します。メインは、「登記・供託オンライン申請システム」ですが、これをフルに使いこなすには、PDF変換ソフト、電子証明書の取得や、独自ソフト「申請用総合ソフト」のインストール(現状、OSはWindowsのみに対応)など多少手間がかかる上に、システムの操作や、手続によっては窓口との連携などに慣れが必要な部分があり、若干ハードルが高いと言わざるを得ません。但し、一部のサービスはより簡単な要件を満たせば利用できるものもあり、各自の状況に合わせて、適宜利用するサービスの範囲を選択するのが最善のアプローチだと思います。本記事は、そのような選択の一助となることを目的としています。
早速ですが、下表1が商業登記関係の主なオンラインサービスの一覧です。
【表1】商業登記関係の主なオンラインサービス(※1)
システム/サービス名 | サービス内容 | 利用するための要件 | |
---|---|---|---|
登記情報提供サービス | ・登記情報の閲覧、ダウンロード | オンラインでの申込手続を経て継続利用できる登録利用(登録費用:個人300円、法人740円)、又は、都度、利用者登録して利用する一時利用の2通りの利用方法がある。 | |
登記・供託オンライン申請システム (以下「本システム」と表記) | ・登記所の手続を広くカバー(利用方法には、以下の1.〜6.のようなメニューがある) | ||
1. 商号調査 | ・登記されている商号を調査 | ・本システムへの利用者登録 | |
2. かんたん証明書請求 | ・登記事項証明書の交付請求 | (印鑑証明書は、電子証明書を取得して「かんたん登記申請」を利用) | ・本システムへの利用者登録|
3. かんたん登記申請 | ・印鑑証明書、登記事項証明書の交付請求 | ・電子証明書の取得 ・ICカードリーダの用意 (ICカード形式の電子証明書の呼び込みに利用) | ・本システムへの利用者登録|
4. 登記すべき事項のオンライン提出 | ・書面による登記申請の一部をオンラインで実施 | ・本システムから「申請用総合ソフト」をインストール (現状、OSはWindowsのみに対応) | ・本システムへの利用者登録|
5. QRコード付き書面申請 | ・書面による登記申請の一部をオンラインで実施 | ・本システムから「申請用総合ソフト」をインストール (現状、OSはWindowsのみに対応) | ・本システムへの利用者登録|
6. 全てのサービス | ・登記事項証明書の交付請求 ・各種登記申請 ・定款の認証 など | ・印鑑証明書の交付請求・本システムから「申請用総合ソフト」をインストール (現状、OSはWindowsのみに対応) ・電子証明書の取得 ・ICカードリーダの用意 (ICカード形式の電子証明書の呼び込みに利用) ・Adobe Acrobat(有償のPDF変換ソフト)の取得 (無償のAdobe Acrobat ReaderではPDFへの変換はできない) ・本システムから「PDF署名プラグイン」をインストール (PDFファイルに電子署名を付与するソフト) | ・本システムへの利用者登録
(※1)「登記情報提供サービス」、「登記・供託オンライン申請システム」は、商業登記だけでなく、不動産登記等もカバーしていますが、ここでは商業登記関係のサービスのみを紹介しています。
以下、各サービスのポイントを述べていきます。
登記情報提供サービス
これは、利用登録のみで商業登記簿等の閲覧やダウンロードができるサービスです。登記所を訪問せずに済む上、登記所窓口で手続するより安く登記情報が得られます。ダウンロードした情報は、登記事項証明書としては使えませんが、内容は同じものが得られます(行政機関等へのオンライン申請等の際に、登記事項証明書の代わりに本サービスが提供する「照会番号」が使える場合もあります)。利用登録には、継続利用のための登録利用と、都度利用者登録を行う一時利用の2通りがあり、登録利用は審査等のため一定の期間(個人は1週間程、法人は1ヶ月程)と登録費用(個人は300円、法人は740円)がかかります。商業登記情報のほか、不動産登記情報等もカバーしています。
登記・供託オンライン申請システム
商業登記のほか、不動産登記等の手続を幅広くカバーしています。利用するサービスによって利用要件に違いがあり、全てのサービスを利用するには表1の一番右下にある要件を満たさなければなりません。その上で、システムの操作やオフライン手続との連携(全てが本システム上で済む訳ではなく、窓口訪問、郵送やメールなどの作業との組み合わせが派生するのが普通です)などに慣れが必要であり、最初は利用のハードルが高いと思われます。そこで、慣れるまでは自身が満たせる要件に従い、利用できるサービスから始めるのが良いのではないでしょうか。以下、商業登記関係の手続について、表1に沿って解説します。
1. 商号調査
登記・供託オンライン申請システムへの利用者登録だけで、登記されている商号の検索ができるサービスです。会社設立時などに、同一住所の同一商号などをチェックするために利用できますが、そのためだけなら登録なしで利用できる国税庁「法人番号公表サイト」も利用できます。
2. かんたん証明書請求
登記・供託オンライン申請システムへの利用者登録だけで、登記事項証明書の交付請求ができるサービスです。尚、印鑑証明書も必要であれば、次の「かんたん登記申請」を利用する必要があります。
3. かんたん登記申請
登記・供託オンライン申請システムへの利用者登録に加え、電子証明書(※2)を取得すれば印鑑証明書の交付請求を行うことができます(合わせて登記事項証明書の交付請求も可能)。
(※2)電子証明書とは、マイナンバーカード用電子証明書などのことですが、詳しくは別記事「行政のオンライン手続について」の「⑦電子認証局について(補足説明)」をご参照。
4. 登記すべき事項のオンライン提出(※3)
登記・供託オンライン申請システムで提供している「申請用総合ソフト」を使って、登記事項提出書を作成、送信したのち印刷すると登記申請書が作成され、それに押印等を行って添付書類等と共に登記所へ提出する手続です。結局は、書面による窓口での申請ですが、登記事項をCD-R等で用意する必要なく、また、申請用総合ソフトで作成した登記事項提出書をもとに登記申請書を作成できるので申請書の作成が容易なほか、申請後の処理状況をシステムで確認することができるのがメリットです。オンライン申請ではないので、電子証明書や電子署名も不要です。利用には、登記・供託オンライン申請システムから「申請用総合ソフト」をインストールする必要があります(現状、OSはWindowsのみに対応)。
5. QRコード付き書面申請(※3)
登記・供託オンライン申請システムで提供している「申請用総合ソフト」を使って、QRコード付き登記申請書を作成して事前に送信したのち印刷し、それに押印等を行って添付書類等と共に登記所へ提出する手続です。結局は、書面による窓口での申請ですが、申請書を申請用総合ソフトで作成するので、作成が容易で入力漏れ等も防げる上、申請後の処理状況をシステムで確認できるのがメリットです。また、オンライン申請ではないので、電子証明書や電子署名も不要です。利用には、登記・供託オンライン申請システムから「申請用総合ソフト」をインストールする必要があります(現状、OSはWindowsのみに対応)。
(※3)商業登記においては、「登記すべき事項のオンライン提出」と「QRコード付き書面申請」の違いがわかりにくくなっています。どちらも利用要件が同じで、手続やメリットも同様となっているので、利用者にとってはどちらも同じように思われます。商業登記においては、もともと「登記すべき事項のオンライン提出」というサービスがありましたが、令和2年1月に不動産登記も含めて「QRコード付き書面申請」が開始された経緯があり、これから新たに利用される場合は、後発の「QRコード付き書面申請」を利用する方が良いかもしれません。
6. 全ての手続
登記・供託オンライン申請システムでできる手続の全てをカバーする場合です。申請書や添付書類に電子署名して提出するため、有償のPDF変換ソフトの取得などが要件になります。表1の利用要件に特に抵抗がない方は、利用を考えても良いかもしれません。(但し、商業登記の申請は一般的にそれほど頻繁に発生する訳ではないので、「6. 全ての手続」が必要かどうかは考慮に値します。)
よくあるケースとして、会社の設立時に電子定款の採用によって印紙税40,000円をセーブしたいというものがありますが、その場合には基本的にこのパターンで対応する必要があります。合同会社の設立の場合は、定款をWORD等の文書作成ソフトで作成し、PDFファイル化して電子署名を付与し、設立登記申請書や他の添付書類等と共に、登記・供託オンライン申請システムで提出します(比較的容易)。株式会社の場合は、以上に加え、定款の認証手続が必要で、それには電子定款を本システムで公証人へ送付するだけでなく、内容の事前確認(FAX、メール又は持参)、面会による認証手続等を公証役場と調整して進める必要があります。(認証手続はテレビ電話でも可能ですが、そのための調整が必要です。)
以上、商業登記関係のオンラインサービスについて、概要を述べてまいりましたが、基本はあくまで書面、窓口での手続としつつも、各自の状況に合わせてオンラインサービスを取り入れ、手間とコストの削減を図っていくのが良いのではないでしょうか。
以上