初回出稿日:2025年2月18日
定期健康診断 特定健康診査
事業者は、労働者に対し原則として年に1回、定期に健康診断を実施する義務があります。本記事では、従業員を使用する殆ど全ての事業者に関係のある定期健康診断について解説します(※1)。
(※1)特定業務従事者の健康診断や、有害業務従事者等の特殊健康診断なども含めた健康診断の全般的な解説は「健康診断について」をご参照。
1. 定期健康診断とは
労働安全衛生法に基づき、事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、医師による健康診断を行う必要があり、これを定期健康診断と呼んでいます。
- 定期健康診断の対象者
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定期健康診断の対象者は、常時使用する労働者(※2)です(但し、6ヶ月ごとに同様な検査項目をカバーする「特定業務従事者の健康診断」(※3)を受診する者を除く)。労働者とは労働基準法上の労働者であり、会社役員や個人事業主、あるいは労働者の配偶者や家族などは対象外になります(※4)。尚、派遣労働者に関しては、派遣元に実施義務があります。
(※2)有期雇用労働者(期間を定めて雇用される労働者)であっても、契約期間が1年以上である者、契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、あるいは1年以上引き続き使用されている者は、常時使用する労働者に該当します。また、所謂パートタイム労働者であっても、1週間の所定労働時間が所謂フルタイム労働者の3/4以上ある場合は、常時使用する労働者に該当します。
(※3)「健康診断について」ご参照。
(※4)労働安全衛生法に基づく定期健康診断の対象外ですが、事業者が任意で対象とすることはもちろん可能です。
- 費用負担
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定期健康診断は、労働安全衛生法に基づく事業者の義務であり、その費用も事業者が負担すべきものです。
一方、定期健康診断に要した時間の賃金支払に関しては、当然には事業者の負担とすべきものではないものの、事業者が賃金を支払うことが望ましいとされています(※5)。
(※5)昭和47年9月18日 労働省労働基準局長通達(基発第602号)
- 定期健康診断の検査項目
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定期健康診断の検査項目は、下表1の通りです(※6)。但し、「海外派遣労働者の健康診断」や「有害業務従事中の特殊健康診断」を受けた者(※7)については、当該健康診断の実施日から1年間に限り、当該健康診断の項目に相当する項目を省略することができます。
【表1】定期健康診断の検査項目
① 既往歴及び業務歴の調査 ② 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 ③ 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査 ④ 胸部エックス線検査及び喀痰検査 ⑤ 血圧の測定 ⑥ 貧血検査 ⑦ 肝機能検査 ⑧ 血中糖質検査 ⑨ 血糖検査 ⑩ 尿検査 ⑪ 心電図検査 (※6)一定の基準に基づき医師が必要ないと認める場合は省略できる項目もあります。
(※7)各健康診断については、「健康診断について」ご参照。
2. 具体的な実施方法
初めて定期健康診断を実施する事業者は、実施を委託する医療機関の選定から始める必要があります。
常時50人以上の労働者を使用し産業医の選任義務がある事業場の場合は、産業医に相談できるので特に問題ないと思います。従業員50人未満などの小規模事業者の場合は、以下のようなアプローチが一般的です。
① | 協会けんぽなど健康保険の実施する健診プログラムを利用する。 |
② | 商工会、商工会議所の実施する健康診断を利用する。 |
③ | 最寄りの診療所、病院などで定期健康診断の受診ができる医療機関を探して依頼する。 |
④ | 最寄りの健康診断機関(※8)へ依頼する。 |
- ① についての補足説明
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対象労働者が、協会けんぽなど健康保険の被保険者の場合、保険者の実施する検診プログラムの利用が選択肢となります。協会けんぽなど健康保険の保険者は、健康保険法150条1項及び関連法令に基づき、40歳以上75歳未満の健康保険の被保険者、被扶養者を対象に、毎年度、一定の項目(※9)をカバーする「特定健康診査」を行う義務があります。そのため保険者では、特定健康診査や、事業者の行う健康診断の検査項目(表1)をカバーする検診プログラム(「生活習慣病予防検診」、「人間ドック」など)を用意し、毎年、加盟事業者や被保険者等へ受診を促しています。こうした検診プログラムを利用すれば、費用面では保険者からの補助もあり、事業者としては検診プログラムを対象労働者(及び対象被扶養者)へ案内し、受診を促すことで定期健康診断に対応することができます。但し、以下のような注意点があります。
- 検診結果は、受診者の同意を得て、別途、受診者本人(又は医療機関から)取得しなければならない(※10)。
- 年齢等により保険者検診プログラムの対象外となる労働者については、別途、事業者が健康診断を実施しなければならない。
- ② についての補足説明
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商工会や商工会議所においては、加盟事業所向けに割安で健康診断を実施しているところが多くあり、加盟事業者にとっては有力な選択肢となります。
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(※8)労働安全衛生法上の健康診断を実施する医療機関を会員とする公益社団法人全国労働衛生団体連合会では、会員機関の健診の質向上のため、検査が適切に行われているかを評価し結果を公表しています。全国各地に所在するこの会員検診機関も選択肢となります。
(※8)「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準」第1条に規定された項目
(※10)因みに、健康保険の保険者は、事業者に対し事業者の実施する健康診断の記録の写しを求めることができ(健康保険法150条2項)、事業者はそれに従う義務があり(同3項)、そしてこの場合、事業者による情報提供は個人情報保護法上の「法令に基づく場合」に該当するため本人の同意は不要です。しかしながら、本件のように事業者が健康保険の保険者から特定健康診査等の記録を取得する場合には、本人の同意が前提となります。
3. 記録の作成、保存、通知
事業者は、定期健康診断の結果に基づき、健康診断個人票を作成し、5年間保存する必要があります。健康診断個人票は、必要事項がカバーされていれば書式は任意ですが、厚生労働省「労働安全衛生規則関係様式」にて雛形を入手することができます(※11)。
(※11)リンク先の「様式第5号(2)」
- 労働者本人への通知
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事業者は、定期健康診断の結果を、遅滞なく、労働者本人へ通知しなければなりません。
- 健康保険への写しの提供
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定期健康診断の対象者が健康保険の被保険者であって、健康保険の保険者(協会けんぽ、健康保険組合など)から当該被保険者の健康診断の記録の写しを求められた場合、事業者はこれを保険者へ提供しなければなりません(※10の前文参照)。保険者は、事業者が労働安全衛生法等に基づき実施した健康診断の結果を取得した場合、その内容に従い特定健康診査の全部又は一部を省略することができます(※12)。
(※12)保険者は特定健康診査の対象外である40歳未満の被保険者の健康診断の結果も含め、事業者へ求めることができ、事業者はこれに従う必要があります。
4. 健康診断の実施後の措置等
事業者は、健康診断の項目に「異常の所見」があると診断された労働者については、医師又は歯科医師の「意見」を聴き、必要に応じて、就業場所の変更、作業の転換などの適切な措置を講じなければなりません。
また、健康診断の結果、「特に健康の保持に努める」必要があると認める労働者に対しては、医師又は保健師による「保健指導」を行うよう努めなければなりません。
- 就業場所変更等の措置
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健康診断の項目に「要観察」、「要精密検査」、「要治療」などの「異常の所見」がある労働者については、まず医師等の意見聴取を行わなければなりませんが、厚生労働省の指針(※13)によれば、常時50人以上の労働者を使用し産業医の選任義務がある事業場は産業医に意見を聴くことが、また、産業医の選任義務のない小規模な事業場は地域産業保健センター(※14)の活用を図ること等が、適当であるとされています。
また、意見聴取及びその後の措置については、以下のようになります(厚生労働省の指針(※13))。
- 医師等からの意見聴取は、健康診断の実施後、速やかに行うことが望ましい(※15)。
- 事業者は、医師等から意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかにこれを提供しなければなりません。
- 医師等から聴取する意見の内容は、「就業上の措置」、つまり就業区分(就業制限、要休業など)とその内容(就業制限であれば、就業場所の変更、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少、出張の制限など)や、作業環境や作業管理に関する改善措置などである。
- 「就業上の措置」は、健康診断個人票の医師等の意見欄に記入を求めることとする。
- 医師等の意見を踏まえ、「就業上の措置」を決定する場合には、あらかじめ当該労働者の意見を聴き、十分な話合いを通じてその労働者の了解が得られるよう努めることが適当である。
- 衛生委員会等(※16)の設置義務のある事業場又は労働時間等設定改善委員会(※17)を設置している事業場においては、必要に応じ、健康診断の結果に係る医師等の意見をこれらの委員会に報告することが適当である。なお、この報告に当たっては、労働者のプライバシーに配慮し、労働者個人が特定されないよう医師等の意見を適宜集約し、又は加工する等の措置を講ずる必要がある。
(※13)厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」。詳細は同指針をご参照ください。
(※14)労働安全衛生法に基づく国の援助として、労働者数50人未満の事業場の労働者の健康管理等に係る支援をを目的とする、厚生労働省所管の独立行政法人労働者健康安全機構の組織。全国47都道府県に約350ヶ所あります。最寄りのセンターは、「都道府県名、地域産業保健センター」で検索してみてください。
(※15)医師又は歯科医師からの意見聴取は、健康診断が行われた日から3ヶ月以内に行わなければならない(労働安全衛生規則51条の2)。
(※16)衛生委員会とは、労働者の健康障害を防止するための対策等を調査審議し、事業者に対し意見を述べることを目的とする委員会です。労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに設置が義務付けられています。
(※17)労働時間等設定改善委員会とは、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」に基づき、労働時間等の設定の改善に関する事項を調査審議し、事業主に対し意見を述べることを目的とする委員会です。
- 保健指導
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労働安全衛生法により、「事業者は、健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うようと止めなければならない。」と規定されています。
5. 定期健康診断結果報告
- 常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断の実施後、遅滞なく、定期健康診断結果報告書を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。(50人未満の労働者を使用する事業者は報告義務はありません。)
- 尚、定期健康診断結果報告の提出は、令和7年1月1日以降、電子申請が原則となっています。報告書の作成、提出は、厚生労働省「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」を利用すると便利です。
以上