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個人事業と会社、どっちを選ぶ?ーこれから事業を始める方へー

個人事業と会社の比較

個人事業と会社設立、自分にとってどちらが良いのでしょうか?

両者の主な違いを以下にまとめてみました。単純に言うと、個人事業は手間がかからない一方で信用面は劣り、会社はその逆となります。また、利益が多いほど会社の方が税金面で有利ですが、利益が少ないうちは、会社は手間やコスト負担が先行してしまうことになります。

下表の比較を見るまでもなく、事業によっては会社形態でないと成り立たないケースも存在します。例えば、企業取引(所謂、BtoB)の場合で、取引先企業から「会社でなければ取引できない」と言われるケースです。特に、上場企業などでは「取引先選定基準」のようなポリシーがあったり、個人事業主との取引を制限しているケースがあります。このような場合は、当然、会社一択となります。企業間取引などでは、継続性や信用が第一で、上場企業などはコンプライアンスの観点から、厳しい運用をしているケースがあるので注意が必要です(※1)

(※1)「取引先選定基準」は、SDGsや反社会的勢力との関係排除などの観点からも導入する大企業が増えています。

そもそもどうして会社の方が個人事業より信用面で優るのでしょうか。会社は商業登記が必須で、本店所在地、目的、資本金や役員などが開示されています。また、個人事業と違い、経営者個人のお金と事業資金の区別が明確で、経営者が万一病気や死亡した場合でも事業の継続性が法的に担保されています。こうした信用面での優位性の表裏として、手間とコストがかかってしまう面もあると言えます。

一方で、信用力に優れ、見栄えも良いからといって、副業などを始めるにあたり安易に会社を設立すると、決算、税務申告などの手続が面倒で、売上が伸びないうちは手間やコストが先行してしまい、結果、休眠会社になってしまうケースも見られます。会社形態を選択するのであれば、事業見通しと、管理負担をカバーする覚悟を持って臨む必要があるでしょう。

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               個人事業           会  社
定義事業者個人の名義、または◯◯屋、□□事務所などの商号(所謂、屋号)を用いて行う事業形態。商号を用いてもそれは事業者自身の別名であり、事業主体は事業者個人です。会社法に基づいて設立した法人による事業形態。具体的には、株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4つがあるが、以下では出資者の責任が出資額に限定される株式会社と合同会社に限って説明します。
責任事業者個人の無限責任出資額を限度とする有限責任(但し、金融機関等から経営者の個人保証を求められる場合もある)
設立手続不要(税務上の届出のみ)。商号登記することもできるが義務ではない。設立手続に手間がかかる。商業登記が義務。
経常手続会社に比べて手間がかからない。決算、税務申告などに手間やコストがかかる。
信用一般に、営業、資金調達、採用などの面で会社より不利。資金力、組織力より個人の能力が重視される事業に向く。一般に、営業、資金調達、採用などの面で個人事業より有利。
税務面所得税を申告納税する。複式簿記で帳簿をつけ、事前に税務署の承認を受ければ青色申告特別控除のメリットが得られるが、法人税と違って累進課税(5%〜45%)が適用されるため、所得が多いほど税率面で不利になる。法人税を申告納税する。法人税の税率(定率23.2%。但し、資本金1億円以下の場合、800万円以下の所得には15%の軽減税率)適用のため、一定以上の所得になれば個人事業より税率面で有利。
社会保険事業者個人は国民健康保険と国民年金に加入。従業員を5人以上雇用すれば従業員のために健康保険と厚生年金保険の手続が必要。代表者のみでも健康保険と厚生年金保険の手続が必要。逆に言えば、代表者の1人会社でも、(国民健康保険、国民年金に代わり)健康保険、厚生年金保険に加入でき、補償面などでメリットあり。

その他の会社の”メリット”?

蛇足ですが、ものの本やネットなどで、個人事業より会社設立を勧める理由として、以下のようなメリットを挙げるものも見かけます。

  • 自宅を社宅にすれば家賃負担が軽減される
  • 生命保険を会社で契約すれば保険料負担が軽くなる
  • 出張手当を社長にも払える
  • 社長の健康診断費用も経費になる
  • 社長も福利厚生制度の対象となる
  • 家族への給与支払いが経費にしやすい

以上は一例ですが、パターンとしては、会社の経費認定の広さを利用して、経営者自身の支払分を会社に寄せることで節税効果を狙うものといえるでしょう。このこと自体は悪いことでもなんでもないのですが、実施するにはそのための手間やリスクを伴うことは認識しておく必要があります。

例えば、社宅、出張手当や福利厚生制度を利用するには、そのためのルールを作成し、社長だけではなく条件に該当する社員全員が使えるようにしなければなりません。また、生命保険を会社で契約すれば、確かに個人で契約するより節税にはなりますが、保険の種類や受取人に応じて適切に会計処理する必要があります(保険料の一部資産計上、役員給与としての処理など)。何より、こうした”経費寄せ”を行うほど会社の数字は悪くなりますし、金融機関など外部の印象も良くはありません。つまり、このような節税策を目的として法人化するというのはあまりお勧めできません。

”経費寄せ”とは別の観点で、法人化の”メリット”としてしばしば聞くものとして、所得税の損失控除の制限に関するものがあります。所得税法では、所得の種類が10種類に分かれていて、全ての所得の損益をネットできるわけではありません。例えば、暗号資産取引での損益は雑所得になり、損失が出てもその他の所得からその損失分を控除できませんが、法人税ではそのような制限はありません。そのため「暗号資産に投資するなら会社名義でやる方が良い」といったような論法もあり得ます。但し、これも法人化の目的とするには疑問符がつきます。

会社設立の目的が、節税や投資のための便利な器づくりであれば、以上のような割り切った考え方もあるとは思いますが(繰り返しになりますが、その場合でも決算や税務申告等の手間やコストを考慮する必要があります)、本来あるべき事業拡大のために法人化するのであれば、「従業員採用のための福利厚生の充実」などのように、必要に応じて制度を導入し、併せてメリットも享受するといったスタンスが良いのではないでしょうか。

以上