初回出稿日:2024年12月2日
70歳以上被用者 在職老齢年金 支給停止調整額(在職老齢年金の)
手続が必要な事業者
厚生年金保険の適用事業所であって、厚生年金保険の被保険者が70歳に達したとき(※1)
(※1)適用事業所、被保険者の定義は「社会保険の適用基準」ご参照。尚、本サイトでは厚生年金保険の被保険者として、当然被保険者(同記事参照)に限定して解説しています(任意単独被保険者、高齢任意加入被保険者は例外的なため)。
必要な手続
厚生年金保険では、被保険者が70歳に達した日(つまり70歳の誕生日の前日(※2))に被保険者資格を喪失します。これに伴い、以下の手続が必要となります。
厚生年金保険料の徴収終了
厚生年金保険料の控除は70際に達した月の前月までであること、また、社会保険料は翌月支払の給与から控除する(翌月控除)ことに注意が必要です。
例えば、給与支払サイクルが月末締め翌月20日払いの場合、70歳の誕生日が5月2日の被保険者は4月まで厚生年金保険料の徴収対象となり、5月20日支払の4月分の給与から厚生年金保険料を控除して終了します。同じ給与支払サイクルで70歳の誕生日が5月1日の被保険者は、3月まで厚生年金保険料の徴収対象となり、4月20日支払の3月分の給与から厚生年金保険料を控除して終了します。
一方、賞与から社会保険料を控除する場合は当月支払の賞与から控除します(当月控除)。従って、70歳の誕生日が5月1日の被保険者の場合、賞与を3月に支給する場合は厚生年金保険料を控除しますが、4月に支給する場合は厚生年金保険料を控除しないことになります。
社会保険料の控除開始と終了のタイミングについて、詳しくは「社会保険の資格取得と喪失、保険料の徴収開始と終了のタイミングについて」をご参照ください。
70歳到達届などの提出
厚生年金の被保険者は、70歳に達するとその資格を喪失しますが、年齢以外の被保険者としての要件を満たす者は「70歳以上被用者」と呼ばれ、在職老齢年金(後述コラムご参照)の仕組みによる年金の支給停止の対象となるため、以下の届出が必要となります。
- ① 70歳到達届(被保険者資格喪失届・70歳以上被用者該当届)(※3)
-
届出の対象者:以下の要件を両方とも満たす者
- 厚生年金の被保険者が在職中に70歳に達し、以降も同一の事業所に使用されること
- 70歳到達日時点の標準報酬月額相当額が、70歳到達日の前日の標準報酬月額と異なること(※4)
届出の期限:70歳到達日(70歳の誕生日の前日)から5日以内
届出の方法:所轄の年金事務所への郵送、窓口提出、又はe-Gov による電子申請
- ② 退職、報酬等に関する各種の届出
-
70歳以上被用者は、在職老齢年金の仕組みによる支給停止の対象となるため、被保険者と同様に報酬に関する届出が引続き必要になります(※5)。
- 定時決定時の算定基礎届
- 随時改定、育児休業等終了時改定に該当する場合の報酬月額変更届
- 賞与を支払った場合の賞与支払届
また、70歳以上被用者が退職した場合には、退職日の翌日から5日以内に、70歳以上被用者不該当届を提出します。届出の方法は、70歳到達届と同様です。
(※2)社会保険では”○歳に達した日”とは、その誕生日の前日を指すので注意が必要です。
(※3)70歳到達届の用紙は、被保険者が70歳に到達する前月に日本年金機構から事業者へ送付されます。また、日本年金機構「従業員が70歳になったとき」からフォーマットや記入例を入手することができます。
(※4)つまり、標準報酬月額に相当する額が70歳到達前後で変わらなければ、70歳到達届を省略することができます。その場合、日本年金機構において厚生年金の資格喪失処理、及び70歳以上被用者該当処理を自動で行います。
(※5)その際の標準報酬月額の計算方法は、被保険者の計算方法と同様です(「社会保険料の標準報酬月額とその決め方」ご参照)。
在職老齢年金とは、「老齢厚生年金を受給中の者が、厚生年金保険の被保険者又は70歳以上被用者であるときに、受給する老齢厚生年金の基本月額と(給与等の)総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を超える場合に、支給される老齢厚生年金の一部又は全額が停止される仕組み」のことをいいます。
以下、詳しく説明します。
- 厚生年金の受給権者の年金額は、大雑把に言うと、国民年金の老齢基礎年金と、報酬比例部分の老齢厚生年金からなりますが、在職老齢年金の支給停止の対象となるのはこのうちの老齢厚生年金です。
- 老齢厚生年金の基本月額とは、加給年金額(※6)を除いた支給月額です。
- 総報酬月額相当額とは、「(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計÷12)」です。
- 支給停止調整額とは、支給停止が適用される基準額で、令和6年度は50万円です(※7)。
- 老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額以下の場合は、老齢厚生年金は全額支給されます(下図1(A))。
- 老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を超えた場合は、その超えた分の半額相当の老齢厚生年金の支給が停止されます(下図1(B))。
- さらに、総報酬月額相当額の支給停止調整額からの超過額が、老齢厚生年金の基本月額以上の場合は、老齢厚生年金全額の支給が停止されます(下図1(C))。
【図1】老齢厚生年金の支給停止イメージ
この在職老齢年金の支給停止額の計算のため、70歳以上被用者についても標準報酬月額や標準賞与の相当額を把握する必要があり、被保険者資格の喪失後も報酬等に関する届出が必要なわけです。
尚、在職老齢年金の支給停止は、65歳以降への支給繰下げによって加算された額については適用されません。また、加給年金(※6)については支給停止の対象ではないものの、老齢厚生年金が全額支給停止となった場合には全額支給停止となります。
また、在職老齢年金の支給停止は、給与所得者に対する制限であり、退職後個人事業で収入を得ている場合には関係ありませんが、会社設立した場合は給与所得になるので支給停止の対象となります。
(※6)加給年金とは、受給者に65歳未満の配偶者、又は子(18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にある子、及び20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害のある子)がある場合に加算される年金です。
(※7)名目賃金変動率に応じて毎年改定されます。
以上