初回投稿日:2025年3月5日
傷病手当金
業務上や通勤中の事由によって生じた傷病等は労災保険の対象(※1)ですが、業務外で生じた傷病等は健康保険の対象です。本記事では、業務外での傷病により休業することになった場合に支給される健康保険の傷病手当金について、その支給要件や受給手続などについて解説します。
(※1)別記事「従業員の労災事故」ご参照。
1. 傷病手当金の支給要件
- (1)健康保険の被保険者であること
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任意継続被保険者は除きます。被保険者資格取得前にかかった傷病による資格取得後の療養についても、傷病手当金の対象となります。
- (2)療養中であること
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療養とは、健康保険で診療を受けることができる範囲内の療養であればよく、実際に療養費の保険給付を受けた場合に限定されません。例えば、自費診療で受けた療養、自宅での療養、病後の静養についても傷病手当金の対象となり得ます。反対に、美容整形手術など、健康保険の給付対象とならない傷病の療養は傷病手当金の対象にもなりません。
- (3)労務に服することができないこと(労務不能)
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その被保険者が従事している労務に服することができない状況であって、例えば以下のような状況も含まれます。
① 休業中に家事の副業に従事しても、その疾病の状況が勤務する事業所における労務不能の程度である場合 ② 傷病が休業を要する程度のものではなくても、通院のため事実上労務に服せない場合 ③ 現在労務に服しても差し支えない者であっても、療養上その症状が休業を要する場合(保険医が将来の病状悪化をおそれ、休業を要するとした場合など) ④ 病原体保有者が隔離収用されたため労務不能である場合 ⑤ 本来の職場における労務に対する代替的性格をもたない副業ないし内職等の労務に従事したり、あるいは傷病手当金の支給があるまでの間、一時的に軽微な他の労務に服することにより、賃金を得るような場合 - (4)継続した3日間の待機を満たしたこと
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待機に関しては、以下のルールが適用されます。
- 待機は、通算ではなく連続して3日間休業した場合に完成する。
- 待機期間中に休日や祝祭日が含まれていても、待機は3日間で完成する。
- 待機期間中に報酬を受けていたり、待機期間が有給休暇として処理されていても、待機は3日間で完成する。
- 待機は、同一の傷病について1回完成すれば足りる。従って、待機が完成し傷病手当金を受給した後に、一旦労務に服したものの、再び同一傷病について労務不能となった場合には、再び待機を完成させる必要はない。
【図1】待機期間と待機完成のイメージ図
尚、就業時間中に傷病により労務不能になった場合、その日に賃金を(一部でも)受けたか否かを問わず、その日から待機期間を起算し、業務終了後に労務不能となった場合は、翌日から起算します。
2. 傷病手当金の支給期間
傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算して1年6ヶ月です。この場合の支給開始日は「実際に支給が始まる日」を指します。例えば、3日間の待機期間を経て4日目に出勤し、5日目から再び労務不能で休業となった場合は5日目から支給期間となります。また、報酬等により支給停止されていた場合(後述ご参照)は、報酬を受けなくなった日又は報酬の額が傷病手当金の額より少なくなった日から支給期間となります。
支給期間中に退職などにより健康保険の被保険者資格を喪失した場合も継続して支給を受けることができます(後述 「5. 退職した場合の傷病手当金(資格喪失後の継続給付)」ご参照)。
【図2】支給期間のイメージ図
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3. 傷病手当金の支給額
1日当たりの傷病手当金の支給額は、以下の式で計算されます。
1日あたりの傷病手当金 = 支給開始日以前の直近の継続した12ヶ月間の標準報酬月額(※2)の平均額 ×(1/30)×(2/3) |
この場合、端数計算は以下の通りになります。
- 支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額の平均額に(1/30)を掛けた額に、10円未満の端数があるときは、その端数を四捨五入した額の 3分の2 に相当する金額
- 1.の金額に1円未満の端数があるときは、その端数を四捨五入した金額
また、支給開始日以前の直近の継続した期間において標準報酬月額が定められている月が12ヶ月に満たない場合は、次の①、②のいずれか少ない額の3分の2 に相当する金額(その金額に1円未満の端数があるときは、その端数を四捨五入した金額)になります。
① | 支給開始日以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均額に(1/30)を掛けた額(その額に10円未満の端数があるときは、その端数を四捨五入した額) |
② | 支給開始日の前年度(※3)の9月30日における全被保険者(※4)の標準報酬月額の平均額を報酬月額とみなしたときの標準報酬月額に(1/30)を掛けた額(その額に10円未満の端数があるときは、その端数を四捨五入した額) |
(※2)標準報酬月額については「社会保険の標準報酬月額とその決め方」ご参照。
(※3)年度は4月〜3月です。
(※4)事業主単位ではなく健康保険単位の全被保険者です。協会けんぽの場合、令和6年9月30日時点の全被保険者の標準報酬月額の平均額は312,550円です。
支給調整等
支給期間中に給与等、報酬の支払が(一部でも)ある場合には、その報酬の額が傷病手当金の相当額より少ない場合に限り、その差額分が支給されます。また、他の手当金等の受給者については以下のような併給調整があります。
- 出産手当金との調整
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健康保険の出産手当金(※5)の受給中に傷病手当金も受給できる場合は、出産手当金が優先します。但し、出産手当金の受給額(報酬との調整が行われている場合には、報酬の額と出産手当金の額との合計額)が、傷病手当金の相当額より少ない場合に限り、その差額分が支給されます。
(※5)出産手当金については「従業員等の妊娠、出産」ご参照。
- 障害厚生年金との調整
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傷病手当金の受給対象者が、同一の傷病により厚生年金保険の障害厚生年金(※6)を受給している場合は、障害厚生年金の額(同一の傷病により国民年金の障害基礎年金も受給している場合は、その合計額)を360で除した額が、1日あたりの傷病手当金の相当額より少ない場合に限り、その差額分が支給されます。
(※6)障害厚生年金は、初診日から一定期間経過した障害認定日において、障害等級1〜3級に該当する程度の障害状態にあるなどの要件を満たした者に支給される年金。このうち障害等級2級以上で初診日において60歳以上65歳未満の場合は障害基礎年金も支給される。
- 障害手当金との調整
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傷病手当金の受給対象者が、同一の傷病により厚生年金保険の障害手当金(※7)の支給を受けることになった場合は、その支給を受けることとなった日以降に支給を受けることができる傷病手当金相当額の合計額が当該障害手当金の額に達する日までの間、傷病手当金は支給されません。
(※7)障害手当金は、初診日から5年以内に傷病の症状が固定し、(障害厚生年金の対象となる障害よりも軽い)障害等級表に定める障害の状態にある場合に支給される一時金。
- 労災保険の休業(補償)等給付との調整
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傷病手当金の受給対象者が、別の原因(業務上又は通勤中の事由)により労災保険の休業(補償)等給付(※8)を受給している場合は、休業補償給付の日額が1日あたりの傷病手当金相当額より少ない場合に限り、その差額分が支給されます。
(※8)休業(補償)等給付については「傷病に関する保険給付」をご参照。
4. 傷病手当金の申請方法
傷病手当金の支給を受ける被保険者は、「傷病手当金支給申請書」を健康保険へ提出します。申請書には、労務不能に関する医師等の意見欄、及び休業期間や報酬の支払などに関する事業主の証明欄があり、それぞれ手配する必要があります。
- 協会けんぽの場合、申請書の書式、記入例、添付書類などは協会けんぽ「健康保険傷病手当金支給申請書」をご参照ください。(2025年3月時点で e-Gov 電子申請には対応していないようです。) 健康保険組合の場合は、各健康保険組合へご照会ください。
- 傷病手当金の請求権は、労務不能な日ごとにその翌日から2年を経過すると消滅します。例えば、待機期間が完成した令和5年9月1日から同年9月30日までの労務不能期間につき、令和7年9月15日に傷病手当金の請求を行なった場合、令和5年9月1日から9月14日までの期間については消滅時効が完成しているため傷病手当金は支給されません。尚、消滅時効により傷病手当金が支給されない場合、通算1年6ヶ月の支給期間は消化されません。例えば上の例で令和5年10月1日以降も労務不能であった場合、9月15日以降通算1年6ヶ月までが支給対象となります。
- 傷病が、交通事故や喧嘩、他人の管理する動物による場合など第三者行為による場合には、別途「第三者行為による傷病届」を提出する必要があります(※9)。
(※9)協会けんぽの場合、協会けんぽ「事故にあったとき(第三者行為による傷病届等について)」をご参照ください。
5. 退職した場合の傷病手当金(資格喪失後の継続給付)
傷病手当金は健康保険の被保険者であることが支給要件ですが、以下の条件を全て満たす場合には被保険者の資格喪失後も被保険者として受給することができるはずであった期間、傷病手当金の支給を受けることができます(※10)。
- 被保険者の資格を喪失した前日(典型的には退職日)まで継続して1年以上被保険者(任意継続被保険者を除く)であること
- 資格を喪失した際に傷病手当金を受けているか、又は受ける条件を満たしている(待機期間を満たしながら、「3. 傷病手当金の支給額」で述べた支給調整等により支給停止されている状態)こと(※11)
尚、資格喪失後の継続給付は断続して受給することはできません。一度でも労務可能となり受給が中断された場合はその時点で受給権は消滅します。
また、資格喪失後の継続給付については、「3. 傷病手当金の支給額」で述べた支給調整等に加え、老齢退職年金給付との併給調整の対象となります。ここでいう老齢退職年金給付とは、老齢厚生年金、老齢基礎年金の他、老齢又は退職を支給事由とする年金給付であって政令で定めるもの(※12)をいい、これら年金給付の合計額を360で除した額が、1日あたりの傷病手当金の相当額より少ない場合に限り、その差額分が支給されます。
(※10)「1. 傷病手当金の支給要件」で述べたように、任意継続被保険者は原則として傷病手当金の対象外ですが、この継続給付の要件を満たす者が任意継続被保険者となった場合は、傷病手当金の継続給付が行われます。
(※11)逆に、退職日の前日までに待機期間を満たしていない場合、退職日に出勤した場合は、継続給付の対象とはなりません。
(※12)健康保険法施行令38条。殆どの場合「老齢退職年金給付=老齢厚生年金+老齢基礎年金」と考えられます。
以上