初回出稿日:2024年12月6日
高年齢者雇用確保措置 高年齢雇用継続給付
高年齢者雇用安定法(※1)により、60歳未満の定年制は禁止され、事業主は、65歳までの「高年齢者雇用確保措置」が義務化されており、以下3通りのいずれかの措置を講じる必要があります(※2)。
① | 定年制の廃止 |
② | 65歳までの定年年齢の引上げ |
③ | 65歳までの継続雇用制度の導入 |
このうち③の継続雇用制度として、雇用形態や労働条件の見直しを伴う再雇用制度を導入している事業者も多くありますが、本記事ではその際に必要な社会保険等の手続、具体的には、以下の3つのケースについて解説していきます。
(1)勤務時間等が減少し社会保険の適用要件を満たさなくなる場合
(2)引続き社会保険の被保険者でありながら標準報酬月額が1等級以上下がる場合
(3)再雇用後の給与が60歳時点の給与の75%未満に下がる場合
(※1)正式名称は、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」です。
(※2)同法では、義務であるこれら「雇用確保措置」に加え、努力目標として70歳までの「就業確保措置」も規定されています。
(1)勤務時間等が減少し社会保険の適用要件を満たさなくなる場合
再雇用時の雇用形態の変更によって、1週間の所定労働時間が20時間未満になるなど、社会保険の適用要件を満たさなくなる場合は被保険者資格を喪失します(※3)。この場合には以下の手続が必要になります。
- 社会保険料の給与等からの控除終了
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社会保険の被保険者資格の喪失日は、旧雇用の退職日の翌日(つまり再雇用日)です。社会保険料は旧雇用の退職月の前月分まで徴収する必要があり、給与からは翌月控除、賞与からは当月控除することにご注意ください。(詳細は、「社会保険の資格取得と喪失、保険料の徴収開始と終了のタイミングについて」をご参照ください。
また、雇用保険についても再雇用後に適用除外になる場合は、以降の給与、賞与から雇用保険料を控除しません。(雇用保険料は、給与等の支給の都度控除するものであり、タイミングについて特段の注意は不要です。)
- 社会保険の切替
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- 社会保険(健康保険、厚生年金保険)の被保険者資格喪失届を所轄の年金事務所へ、旧雇用の退職日の翌日から5日以内に提出します。e-Gov による電子申請も可能です。
- また、雇用保険の被保険者資格を喪失する場合も、雇用保険の被保険者資格喪失届を所轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ、旧雇用の退職日の翌々日から10日以内に提出します。こちらも e-Gov による電子申請も可能です。
事業者による以上の資格喪失手続のほか、従業員自身で以下の手続が必要になります。
医療保険の加入手続
- 従前の健康保険に任意加入するか、国民健康保険へ新規加入するかどちらかを選択して加入手続を行います。
国民年金への任意加入手続(希望する場合)など
- 60歳以上の者には国民年金の加入義務はない一方、過去に未納期間がある場合には、65歳までは任意加入により基礎年金を増やすことができます。
- また、再雇用者である従前の厚生年金保険の被保険者に、60歳未満の被扶養配偶者がいる場合は、当該配偶者は国民年金の第3号被保険者から第1号被保険者へ変更する必要があります。具体的には、国民年金の種別変更届を住所地の市区町村役場へ、再雇用者の旧雇用の退職日の翌日から14日以内に提出します(マイナポータルからのオンライン手続も可能です)。
(※3)社会保険の適用要件については「社会保険の適用基準」をご参照。
(2)引続き社会保険の被保険者でありながら標準報酬月額が1等級以上下がる場合
次に、再雇用後も社会保険の適用要件は満たすものの、給与等の減額により標準報酬月額が1等級以上低下する場合の手続として、「同日得喪」があります。
これは、再雇用後の給与の減額に応じて負担する社会保険料も同時に減額する特例措置で、同日得喪を行わない場合に再雇用後もしばらく旧雇用の給与水準に基づく(高い)社会保険料が徴収されることを避けるためのものです。
詳しくは、「社会保険の標準報酬月額とその決め方」の「60歳以上の者の再雇用時の特例」をご参照ください。
必要な手続は以下の通りです。
何を | ・ 健康保険/厚生年金保険 被保険者資格取得届 ・ 同、資格喪失届 ・ 継続再雇用に関する証明書(※4) |
どこへ | 所轄の年金事務所 e-Gov による電子申請も可能です |
いつまでに | 再雇用日から5日以内 |
その他、同日得喪についての注意点につき、日本年金機構:年金Q&Aもご参照ください。
(※4)記入例については、日本年金機構「60歳以上の方を、退職後1日の間もなく再雇用したとき」などをご参照ください。
(3)再雇用後の給与が60歳時点の給与の75%未満に下がる場合
最後に、再雇用後に給与が一定レベル以上下がった場合に受けられる雇用保険の「高年齢雇用継続給付(※5)」について解説します。
- 支給対象者
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以下の要件を満たす者
- 60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者(一般被保険者又は高年齢被保険者)(※6)
- 被保険者であった期間が5年以上であること(※7)
- 支給要件
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- 支給対象月(※8)に支払われた賃金額が、60歳到達時等の賃金額(※9)と比較して75%未満となっていること
- 支給対象月の賃金額が支給限度額(※10)未満であること
- 支給対象月の高年齢雇用継続給付として算定された額が最低限度額(※11)を超えていること
- 支給額
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- 支給対象月の賃金額が60歳到達時等の賃金額の61%未満の場合、支給対象月の賃金額の15%相当額(※12)
- 支給対象月の賃金額が60歳到達時等の賃金額の61%以上75%未満の場合、支給対象月の賃金額に、15%から一定の割合で逓減する率を乗じて得た額(※13)
- 但し、以上によって算定された支給額と支給対象月の賃金額の合計が支給限度額(※10)を超える場合は、支給限度額から支給対象月の賃金額を減じた額
計算例- 1. 60歳到達時等の賃金額が40万円、支給対象月の賃金額が32万円の場合
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支給対象月の賃金額が60歳到達時等の賃金額の80%となり、75%以上のため支給されない。
- 2. 60歳到達時等の賃金額が40万円、支給対象月の賃金額が24万円の場合
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支給対象月の賃金額が60歳到達時等の賃金額の60%となり、61%未満に低下しているため、以下の計算により支給額は3万6千円となる。
240,000円 × 15% = 36,000円
- 受給手続
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- 初めて給付金の支給を受ける際に、以下の手続を行います。
何を ・ 高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書
・ 雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書どこへ 所轄の公共職業安定所(ハローワーク) e-Gov による電子申請も可能です いつまでに 支給対象月の初日から起算して4ヶ月以内 - 次回以降の支給申請については、公共職業安定所の交付する申請書を用いて、指定してされた月中に手続を行います。e-Gov による電子申請も可能です。
(※5)厳密に言えば、「高年齢雇用継続給付」には、いわゆる失業手当を受給した後に再就職した被保険者に支給される「高年齢再就職給付金」と、失業手当を受給することなく雇用を継続する被保険者に支給される「高年齢雇用継続基本給付金」の2種類がありますが、ここでは後者について解説しています。
(※6)従って、上記(1)で述べた再雇用後に雇用保険の適用除外になる者は対象外です。雇用保険の被保険者の種類、要件については「労働保険の適用基準」をご参照。
(※7)離職等による被保険者資格の喪失から新たな被保険者資格の取得までが1年以内であり、その間に失業手当等を受給していない場合、過去の被保険者期間を通算してカウントします。尚、60歳到達時点で被保険者期間が5年に満たない場合は、65歳到達時までに被保険者期間が5年に達した時点(本記事で「60歳到達時等」と呼んでいます)で要件が満たされることになります。
(※8)支給対象月とは、支給対象者が60歳に達した日の属する月から65歳に達する日の属する月までの期間内にある月です。
(※9)但し、上限(2024年12月現在、494,700円)、下限(同、86,070円)があり、60歳到達時等の賃金が上限超(下限未満)の場合は上限額(下限額)を60歳到達時等の賃金額として支給額を算出します。上限、下限は毎年8月1日に改定されます。
(※10)2024年12月現在、376,750円。毎年8月1日に改定されます。
(※11)2024年12月現在、2,295円。毎年8月1日に改定されます。
(※12)令和7年4月1日以降、「支給対象月の賃金額が60歳到達時等の賃金額の64%未満の場合、支給対象月の賃金額の10%相当額」へ変更になります。詳しくは厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」をご参照。
(※13)(※12)に伴い同様に変更になります。
以上