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労使協定について

初回出稿日:2024年 3月1日

最新更新日:2024年6月22日

本記事のキーワード

労使協定 36協定 特別条項付き36協定 労使委員会

本記事では、労務分野で重要な知識である労使協定について基本事項をカバーするとともに、労使協定の中でも最も重要な36協定についてより具体的に見ていきます。また最後に、労使協定より厳しい要件からなる労使委員会による決議についても解説します。

労使協定とは

労働基準法上の労使協定とは、使用者が、労働者の過半数で組織する労働組合(そのような労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)との間で、労働条件について書面にて締結する協定のことであり、これにより使用者に免罰的効果を与えるものです。

免罰的効果とは、本来法律違反でも、労使協定を結べば法律違反として問われなくなることをいいます。

例えば、法定時間外労働や法定休日労働は、本来、法律違反(※1)ですが、36協定という労使協定を結べば、使用者の違法性は一定範囲で問われなくなります。また、賃金は原則(控除を行わず)全額を支払わなければなりません(※2)が、賃金控除協定という労使協定を結べば、寮費や組合費などを賃金から控除することが許されます(※3)

このように、労使協定は免罰効果(のみ)を持つものであり、労働条件の最低基準を定めた法令や、最低基準以上の労働条件を決める労働協約、就業規則などとは性格が異なるため、これらと優先順位を競うものではありません(※4)

(※1)労働基準法32条、同35条等。

(※2)所謂、賃金支払の5原則(労働基準法24条)。詳しくは別記事「給与に関する基礎知識」ご参照。

(※3)実際に賃金から控除するためには、賃金控除協定による免罰効果に加え、就業規則や労働契約などに規定して労使間の契約を整える必要があります。尚、賃金控除協定は、(後に述べる36協定とは違い)労働基準監督署へ届出る必要はありません。

(※4)労働協約や就業規則など、労働条件の基準を定める規定その適用順位については、別記事「就業規則に関する必要最低限の知識」ご参照。

36協定とは

労働者を法定労働時間を超えて労働させる場合、あるいは法定休日に労働させる場合、使用者は労働基準法36条の規定に従って労使協定を結び、所轄の労働基準監督署へ届出る必要があります。この労使協定を根拠条文に因んで、一般に「36協定」(サブロク協定)と呼んでいます。

36協定は、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、そのような労働組合がない場合は労働者の過半数を代表するものと書面にて締結する必要があります。

36協定は、該当する労働者が1人でもいる場合に、原則、事業所毎に作成する必要があります。

36協定の有効期限については法令の定めはありませんが、労働基準監督署は1年を推奨しており、基本的に毎年、締結と届出を行うことになります。

尚、36協定を締結しても、以下の時間外労働の制限が定められています(※5)

(1)原則

・休日労働を除き、月45時間以内、年360時間以内

(2)臨時的な特別な事情がある場合

・休日労働を除き、年720時間以内

・休日労働を含め、単月100時間未満、かつ、2ヶ月から6ヶ月平均が全て月80時間以内

・時間外労働が月45時間を超えるのは年6ヵ月が限度

(※5)これらの制限は、2020年4月以降、中小企業(個人事業を含む)にも罰則付きで適用されていますので注意が必要です。但し、建設業や運輸業など、制限の適用が2024年4月まで猶予されたり、例外的な制限が適用される業種もごく例外的にあります。

「(2)臨時的な特別な事情がある場合」の条件を適用するためには、その対象業務の種類、臨時的に限度時間を超えた労働が必要となる(具体的な)場合、健康・福祉確保措置などを規定した「特別条項付き36協定」を締結する必要があります。

労働基準監督署への届出書式及び記入例は、厚生労働省 東京労働局「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)」が参考になります。本協定届は労働者側と使用者が署名(又は記名・押印)することで、36協定としても利用できるようになっています。(様式第9号は(一般の)36協定、様式第9号の2は特別条項付き36協定用になっています。)

また、時間外労働規制、36協定に係る詳細は、厚生労働省「時間外労働の上限規制/わかりやすい解説」も参考になります。e-Govによる電子申請手続もこちらでカバーされています。

労使委員会とその決議について

最後に、労使協定に関連して、労使委員会による決議について解説します。

労使委員会とは

労使協定が労働者の過半数で組織する労働組合か、そのような労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と使用者の間で交わす協定であるのに対し、より高度な労使間の合意を図る機関として労働基準法で規定される労使委員会を設置する場合があります。労使委員会は、「賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)」とされ、次の①〜③を満たすものでなければなりません。尚、労使委員会を設置したこと自体については、行政官庁に届出る必要はありません。

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当該委員会の委員の半数は管理監督者以外の者の中から、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合には、労働者の過半数を代表する者)に任期を定めて指名されていること
当該委員会の議事について議事録が作成され、且つ、5年間(当分の間は3年間)保存されるとともに、当該事業場の労働者に対する周知が図られていること
当該委員会の運営について必要な事項に関する規程が定められていること

労使委員会の決議

労使委員会による決議は、その委員の5分の4以上の多数による決議により行い、その決議は時間外労働、休日労働、代替休暇、年次有給休暇、みなし労働時間制、変形労働時間制に関しては労使協定と同様な効果を持つほか、労使協定では認められない企画業務型裁量労働制(みなし労働時間制の一つ)や高度プロフェッショナル制度の採用についても決議することができます(※6)。また、労使協定であれば行政官庁に届出を要するものであっても、36協定に代わる決議を除き、当該決議を行政官庁へ届出る必要はありません。

(※6)みなし労働時間制、変形労働時間制、高度プロフェッショナル制度については、別記事「労働時間のルール」をご参照。

以上