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個人事業の開業手続

個人事業を開始するにはどういった手続が必要なのでしょうか。ここでは、この疑問にお答えします。

この記事の内容

個人が事業を開始するだけなら、実は特別な手続は必要ありません。但し、以下の3点には注意が必要です。

  • 許認可が必要な事業
  • 税金関係の手続
  • 商号を登記する場合の手続

まず、許認可については、該当する事業を開業する場合、まず第一に対処しなければなりません。この点については、別記事「許認可が必要な事業」にてカバーしておりますのでご参考ください。

本記事では、税金関係と商号の2点について解説します。また、ここで扱うのは個人事業の開業に関わる手続で、開業後の実務(記帳や税務申告、人の採用に係る手続など)は、別の記事でカバーします。

税金関係の手続

個人事業を開始すると、税金面で一般の個人(典型的には給与所得者)とは違った扱いになるものがあります。下表1は、個人に関わる主な税目について、一般の個人と個人事業主との違いを要約したものです。

【表1】

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税目一般の個人(個人事業主以外)個人事業主
所得税給与所得の場合、源泉徴収及び年末調整が基本。事業所得等は申告納税。
住民税所得等に応じて自治体が計算して徴収。同左。(但し、納付方法に違いあり。)
事業税なし。所得税の申告を基に自治体が計算して徴収。
固定資産税土地、家屋につき、登記情報を基に自治体が計算して徴収。土地、家屋については同左。
加えて、事業用の償却資産について自治体へ申告を行う必要があり、自治体はそれをもとに税額を計算。
消費税申告不要課税事業者になれば、申告、納税が必要

まず、所得税ですが、給与所得者は源泉徴収及び年末調整が基本であるのに対し、個人事業主は自身で確定申告を行う必要があります(※1)。確定申告は(所得がなければ行わなくても良いので)必ずしも義務ではない一方、所得のあるのに失念すると、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課されるので注意が必要です。

(※1)所得税の本則からすると確定申告が基本ですが、(納税者全員が確定申告を行うと税務署の負担が大きいため)給与所得者は特例として源泉徴収が原則となっています。従って、給与所得者でも一定以上の所得がある場合や、年末調整の対象とならない控除を受ける場合などには、本則に戻って確定申告を行うことは周知の通りです。

住民税は、給与所得者、個人事業主とも同様に、前年の課税所得から計算する所得割と、一律に割り当てられる均等割の合計額を、自治体が作成する納付書に基づき納税します。給与所得者と個人事業主の違いは納付方法くらいで、給与所得者が給与からの天引き(特別徴収)となるのに対し、個人事業主は、自治体から送られてくる納付書に基づき自ら支払います。いずれにしても(納税者からの申告が必要ない)賦課課税方式(※2)であり、所得税を納めていれば個人事業主になっても申告の必要はありません。

(※2)税金の徴収方法で、国、自治体が税額を計算して納税者に通知し、納税者が支払う方式。納税者が自ら計算して申告、納付する申告納税方式と、2通りの徴収方法がある。

事業税は、個人事業主にのみ係る税金であり、後ほど説明します。

固定資産税は、一般の個人の場合、土地と家屋に係るものだけが対象であり、これらの税額は登記情報等を基に自治体が計算して作成する納付書に基づいて納税します。個人事業主の場合は、これに加え、償却資産に係る固定資産税(一般に「償却資産税」と呼ばれることもあります)を払う必要があります。但し、償却資産税の関しては開業時に必要な手続はないので、税務申告手続の一部として別記事(※3)にて解説します。

(※3)「個人事業の記帳・決算・税務申告」ご参照。

最後に消費税ですが、個人事業主として事業開始の年は、自ら課税事業者として届出を行わない限り、(消費税の申告、納税が不要な)免税事業者となります。2年目以降は、前年の売上高等により課税事業者として消費税の納税義務が生じる可能性があります。初年度から自主的に課税事業者になる場合や、2年目以降に課税事業者に該当する場合の手続については、別記事「消費税の課税事業者となるかどうか、について」をご参照ください。

以上要約すると、個人事業主となった場合の大きな違いは、納税者からの確定申告が基本となる所得税、新たに手続が必要な事業税、償却資産税、消費税ということになります。償却資産税と消費税については、別記事でカバーしていますので、以下、所得税と事業税に関する開業時の手続について説明します。

開業時の所得税関係の手続

開業後1ヶ月以内に管轄の税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」(所謂、開業届)を提出します。これにより税務署に個人事業を開業したことが認知され、以降、毎年、所得税の確定申告書が届くようになります(※4)。開業届の提出方法は、国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」をご参照ください。 e-Tax(※5) での提出も可能です。

(※4)開業届は提出しなくても罰則はありませんが、所得税の青色申告(後述)を利用する場合には開業届の提出が前提となります。また、銀行の口座開設時や事務所の賃貸借契約時などに開業届(控)の提示を求められることがあります。

(※5)国税関係のオンラインサービスです。詳しくは、別記事「行政のオンライン手続について」ご参照。但し、開業届の提出には Web版 e-Tax ではなく、e-Taxソフトのインストールが必要ですがOSは Windows にしか対応していません。(Mac OS では利用できません。2023年9月現在。)

開業届を行ったら、続けて提出をお勧めしたいのが「所得税の青色申告承認申請書」です。青色申告とは、複式簿記等による帳簿作成を前提として、各種の税メリットを受けることができる制度です。(青色申告を適用しない)白色申告の場合でも、一定の帳簿作成、保存義務があり、これらを自力でこなすのは結構大変な一方、会計ソフトを導入すれば複式簿記へは比較的簡単に対応することができます。さらに、青色申告のメリットの一つである青色申告特別控除によって、会計ソフト導入のコストは十分回収可能です(※6)。そういう訳で、個人事業主の過半は青色申告を適用しています(※7)。青色申告のメリットなどについては、別記事「個人事業の青色申告」をご参照ください。

「所得税の青色申告承認申請書」の提出期限は、開業日から2ヶ月以内です。(申請が遅れると、青色申告の適用が1年遅れることになります。) 青色申告の申請方法の詳細は、国税庁「所得税の青色申告承認申請手続」をご参照ください。e-Tax による申請も可能(※8)です。

(※6)年65万円の青色申告特別控除を適用した場合、所得税の最低税率15%を前提にしても、年間97,500円の節税効果があり、会計ソフトの使用料等はカバー可能です。

(※7)国税庁の税務統計によれば、2018年の事業所得者3,729,386人のうち、2,279,128人(約61%)が青色申告者となっており、また、青色申告者数の割合は過去から増加傾向にあります。

(※8)所得税の青色申告承認申請は、Web版 e-Tax でも可能なので、Mac OS でも手続可能です。

所得税関係の手続の最後に、(やや細かい話にはなりますが)会計処理の選択に関して、下表2にある4つの届出を行うことができます。これらの提出は任意であり、提出期限も確定申告までと余裕がありますので、必要であれば提出を検討してください。提出は e-Tax でも可能です(※9)

(※9)これらの届出には Web版 e-Tax ではなく、e-Taxソフトのインストールが必要です。(OSは Windows しか対応していないので Mac OS では利用できません。2023年9月現在。)

【表2】

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提出書類提出期限概要詳細リンク
所得税の棚卸資産の評価方法の届出書確定申告期限まで届出をしなかった場合、最終仕入原価法が適用になる(青色申告者は、本届出を提出すれば低価法も選択できる)国税庁「所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続」
所得税の減価償却資産の償却方法の届出書届出をしなかった場合、定額法が適用になる同「所得税の減価償却資産の償却方法の届出手続」
所得税の有価証券の評価方法の届出書届出をしなかった場合、総平均法が適用になる同「所得税の有価証券の評価方法の届出手続」
所得税の暗号資産の評価方法の届出書届出をしなかった場合、総平均法が適用になる同「所得税の暗号資産の評価方法の届出手続」

開業時の個人事業税関係の手続

個人事業税は、地方(都道府県)に納める税金で、業種分類別に一定額を超える所得に対して課税されます。所得税の確定申告書に事業税に関する事項の記載を行えば、その(つまり前年の)所得に基づき計算した税額を、納税通知書として都道府県から対象となる個人事業主に送付されるので、それに従い納付することになります。

開業時の手続としては、都道府県税事務所へ「事業開始等申告書」を提出することになります。都道府県によって書式や提出期限が違うので、ネットで「事業開始等申告書 都道府県名」などキーワード検索してみてください(※10)。尚、現状、eLTAX(※11) では提出できないので、都道府県税事務所の窓口(郵送可の自治体もあります)で手続を行う必要があります。

(※10)因みに、「事業開始等申告書」の提出を失念しても、ペナルティ等はありません。本文で述べたように、個人事業税は、所得税の確定申告を行えば、課税対象者へ都道府県から納税通知書が送付され、納税はその納付書によって行う仕組みになっています。

(※11)地方税関係のオンラインサービスです。

商号を登記する場合の手続

個人事業主の商号(屋号)とは、◯◯屋、□□事務所など、事業を行う際の事業者自身の別名です。個人事業では商号を用いるかどうか、用いる場合でも登記するかどうかは任意です。一般に商号を登記することで信頼性が高まると言われています。個人事業の場合は事業ごとに複数の商号を持つことも可能です。登記する場合は以下の手続となります。

  • 以下を準備して、所轄の法務局を訪問します。
 ・個人の実印とその印鑑証明書  
 ・屋号印
 ・登記料3万円
  • 法務局で、印鑑届出書に登録する屋号印を押し、商号登記申請書に必要事項を記入して登記料3万円分の収入印紙を貼って提出します。

商号の登記手続は、「登記・供託オンライン申請システム」(※12)でも行うことができますが、個人事業主の場合は、同システムを利用する機会は限られており、利用登録や設定の手間を考えると、窓口での手続の方がお勧めです。

(※12)法務局関係のオンラインサービスです。

尚、個人事業主が商号の登記を申請する場合、申請書に「営業の種類」を記載する必要がありますが、登記が認められるかどうかはその記載内容に拠るので注意が必要です。つまり、商号は商人が名乗るものという原則があり(※13)、(存在自体が商人となる会社とは違い)個人が商人として認められるのは、「商行為」を行う者に限られる(※14)という制約があるのです。従って、個人の場合、申請すれば必ず商号の登記ができる訳ではなく、「営業の種類」によっては、申請が却下されることがあります。「商行為」に該当するかどうかは、商法4条2項にある店舗等による販売業などや、同501条、502条の各号に該当するかどうかで判断されます。申請の際に窓口で「営業の種類」が適当かどうかのアドバイスを受けられれば良いのですが、通常はそのような対応は期待できず、窓口では機械的に受け付け、問題があれば後日連絡が来ることになります。個人的には、商法502条に列挙されている項目から該当するものを選択し、そのまま「営業の種類」として記載して商号登記を行った経験がありますので、ご参考まで述べておきます。

(※13)商法11条

(※14)商法4条

以上