初回出稿日:2024年11月18日
法定調書 源泉徴収票 給与支払報告書 支払調書 法定調書合計表 電子的提出の一元化 普通徴収切替理由書兼仕切書
法定調書とは、所得税法などにより税務署への提出が義務付けられている書類のことで、令和6年11月現在、全部で63種類あります(※1)。本記事では、このうち多くの中小事業者にとっても提出が必要となる「給与所得の源泉徴収票」及び「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」について解説します(※2) 。
【表1】主な法定調書
所得税法の規定によるもの |
① | 給与所得の源泉徴収票(本記事第1章で解説します) |
② | 退職所得の源泉徴収票 |
③ | 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(本記事第2章で解説します) |
④ | 不動産の使用料等の支払調書 |
⑤ | 不動産等の譲受けの対価の支払調書 |
⑥ | 不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書 |
⑦ | 利子等の支払調書 |
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相続税法の規定によるもの |
㊹ | 生命保険金・共済金受取人別支払調書 |
㊺ | 損害(死亡)保険金・共済金受取人別支払調書 |
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その他の税法の規定によるもの |
㊾ | 上場株式等の配当等の支払を受ける大口の個人株主に関する報告書 |
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法定調書の作成、提出は e-Tax 等によることもできます(※3)(※4)。
(※1)法定調書の一覧は、国税庁「法定調書関係」ご参照。
(※2)法定調書に関する国税庁の解説は、国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」などをご参照ください。
(※3)e-Tax には、ブラウザで利用できる e-Taxソフト(Web版)と、インストールが必要な e-Taxソフトの2種類がありますが、前者は表1の①〜⑥のみ作成、送信が可能、後者はすべての作成、送信が可能です。後者は OS が Windows のみとなっています(MacOSは不可)。
(※4)前々年の法定調書の提出枚数が、(法定調書の種類毎に)100枚以上であった場合は、e-Tax、光ディスク、又はクラウド等での提出が義務となります。尚、令和9年以降は「100枚以上」が「30枚以上」に変更となります(即ち、令和7年中に30枚以上の法定調書の提出があった場合は、令和9年以降 e-Tax 等での提出が義務となります)。
1. 源泉徴収票(給与支払報告書)の作成、提出
給与等を支払う事業者(※5)は、所得税法226条1項の規定により、以下のタイミングで受給者(従業員、役員等)ごとに給与所得の源泉徴収票を2通作成し、所轄の税務署と受給者へ交付しなければなりません(※6)。
【表2】給与所得の源泉徴収票:作成と交付のタイミング
作成のタイミング | 交付の期限 |
---|---|
毎年(1月〜12月)の給与、賞与等の支給額が確定した時 | 翌年1月31日(受給者、税務署とも)(※7) |
受給者の退職時 | 受給者へは退職の日以降1ヶ月以内 税務署へは翌年1月31日(※7) |
また、給与等を支払う事業者(※8)は、地方税法317条の6の規定により、受給者ごとに毎年(1月〜12月)の給与支払報告書を作成し、翌年1月1日時点(退職者は退職時点)の受給者の住所地の市区町村へ提出しなければなりません。提出期限は翌年1月31日(※7)です。
以上述べた毎年1月31日までに作成、提出する「給与所得の源泉徴収票」と「給与支払報告書」は、根拠法と提出先は違うものの基本的に同じ内容となっており、実務上はセットで作成することになります。本記事では、以降両方まとめて呼ぶ場合、「源泉徴収票(給与支払報告書)」と表記します(※9)。
(※5)常時2人以下のお手伝いさんなどのような家事使用人だけに報酬を支払っている個人には源泉徴収票の作成義務はありません。逆に言えば、それ以外の場合は給与等を支払ったすべての人について源泉徴収票の作成義務があります(源泉徴収した所得税がゼロの場合も含め)。
(※6)税務署への提出が必要なのは、一定基準に該当する場合です(詳細後述)。
(※7)1月31日が、土曜日、日曜日の場合は翌月の第一月曜日。
(※8)常時2人以下のお手伝いさんなどのような家事使用人だけに報酬を支払っている個人には給与支払報告書の作成義務はありません。逆に言えば、それ以外の場合は給与等を支払ったすべての人について給与支払報告書の作成義務があります。
(※9)源泉徴収票(給与支払報告書)のフォーマットは、必要事項が記載されていれば良いことになっています。税務署や市販で入手できる手書き用フォーマットでは、複写で同時に作成できるようになっています。また、電磁的方法により交付することも可能です(その場合、従業員に交付するものは従業員の承諾が必要です)。
(1)源泉徴収票(給与支払報告書)の作成方法
源泉徴収票(給与支払報告書)の作成方法は、年末調整を行なった後に作成する場合と、年末調整を行わずに作成する場合とで違いがあります。
年末調整を行なった後に作成する場合
源泉徴収票(給与支払報告書)の主要部分の入力は、年末調整で作成した源泉徴収簿から転記します。下図1は、左側に源泉徴収簿の例(年末調整に関する記事「年調年税額の計算」で作成した源泉徴収簿兼賃金台帳からの抜粋)、右側にそれをもとに作成した源泉徴収票(給与支払報告書)を示しており、両者の番号が対応しています。
源泉徴収票(給与支払報告書)のその他の記入項目は、給与所得者、配偶者、親族等の現況や各控除額に関する情報で、年末調整時に使用した各申告書(※10)をもとに記載します(※11)。
【図1】源泉徴収簿と源泉徴収票(給与支払報告書)の対応関係
(※10)4種類の申告書の概要は「年末調整の概要」をご参照。
(※11)記載方法の国税庁の解説は、前掲の国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」から「第2 給与所得の源泉徴収票(給与支払報告書)」をご覧ください。
年末調整を行わずに作成する場合
年の途中で退職した人、2か所以上で勤務しており他事業所へ給与所得の扶養控除等(異動)申告書を提出している人(乙欄適用者)、年収2,000万円以上の人などについては、年末調整を行わずに源泉徴収票(給与支払報告書)を作成します(※12)。
その場合は、下図2に示した要領で左側の源泉徴収簿の薄赤色部分を記入します。下図3は、給与計算等の記事で使用した源泉徴収簿兼賃金台帳をもとに、図2で参照する箇所を示したものです。
【図2】年末調整を行わずに作成する源泉徴収票
【図3】(年末調整前の)賃金台帳例
(※12)死亡による退職など例外的に年末調整が必要になる場合があります。詳しくは、「年末調整の概要」をご参照。
(2)源泉徴収票(給与支払報告書)の提出方法
作成した源泉徴収票(給与支払報告書)は、以下の3枚からなり、それぞれ別々に提出(交付)します。
【表3】作成した源泉徴収票(給与支払報告書)とその提出先
作成した源泉徴収簿(給与支払報告書)の各用紙 | 提出先 |
---|---|
源泉徴収票(受給者交付用)(※13) | そのまま個別に従業員へ交付します。(図4の①) |
源泉徴収票(税務署提出用) | 法定調書合計表(後述)を作成し、提出基準(後述)に該当するもののみ、他の支払調書とまとめて提出します。(図4の②) |
給与支払報告書(個人別明細書) | 自治体ごとに給与支払報告書(総括表)(後述)を作成し、各自治体へ提出します。(図4の③) |
【図4】源泉徴収票(給与支払報告書)の提出先
以下、税務署に提出する源泉徴収票、及び各自治体へ提出する給与支払報告書の扱いについて、より詳しく解説します。尚、eLTAX を利用すれば、税務署への源泉徴収票と各自治体への給与支払報告書の提出を一括して行うこともできます(eLTAXによる「電子的提出の一元化」と呼ばれています)(※14)。
(※13)受給者(従業員)へは、マイナンバー、法人番号の記載がない源泉徴収票を交付します。
(※14)eLTAX による給与支払報告書の提出は、ブラウザで利用できる PCdesk(Web版)ではなく、インストールが必要な PCdesk(DL版)が必要ですが、DL版の利用は Windows が前提となりなす(MacOSでは不可)。従って「電子的提出の一元化」も、Windows が前提となります。
源泉徴収票(税務署提出用)の提出方法
給与所得の源泉徴収票を税務署へ提出する必要があるのは、受給者の区分ごとに以下の基準に該当する場合です。
- 年末調整をしたもの
- スクロールできます
受給者の区分 提出の基準 法人(人格のない社団等を含む)の役員(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人、相談役、顧問等である人)、及び、現に役員をしていなくても本年中に役員であった人 本年中の給与等の支払金額が150万円を超えるもの 弁護士、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、弁理士、海事代理士、建築士等、所得税法204条1項2号に規制する人(※15) 本年中の給与等の支払金額が250万円を超えるもの 上記以外の人 本年中の給与等の支払金額が500万円を超えるもの (※15)これらの受給者に給与等として支払っている場合であり、報酬等として支払っている場合は、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」 (後述)の提出対象となります。
- 年末調整をしなかったもの
- スクロールできます
受給者の区分 提出の基準 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した人 本年中に退職した人、災害により被害を受けたため本年中の給与所得に対する源泉所得税及び復興特別所得税の徴収の猶予又は還付を受けた人 本年中の給与等の支払金額が250万円を超えるもの
但し、法人の役員の場合は50万円を超えるもの主たる給与等の金額が2,000万円を超えるため年末調整をしなかった人 全て 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しなかった人(月額表又は日額表の乙欄若しくは丙欄適用者等) 本年中の給与等の支払金額が50万円を超えるもの
法定調書合計表の作成
提出基準に該当する源泉徴収票は、表3、図4に示した通り、法定調書合計表を作成し、他の支払調書とまとめて提出します。法定調書合計表とは、法定調書のうち給与所得の源泉徴収票を含む6種類の支払調書をまとめて報告するものです(下図5)。
【図5】法定調書合計表
法定調書合計表のフォーマット及び記載要領は、国税庁「給与所得の源泉徴収票(同合計表)」などをご参照ください。記入方法は、国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」の「第8 給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表の書き方」も参考になります。
尚、個別の源泉徴収票や法定調書は提出基準を満たすものだけを税務署へ提出しますが、法定調書合計表にはそれ以外(つまり法定調書の提出基準外の支払分も含めた)全体の支払額や人数も報告する内容になっています。提出すべき法定調書がない場合は、支払った給与、報酬等の額や人数を記入し、「摘要」欄に「該当なし」として法定調書合計表のみを提出しなければなりません。
e-Tax で提出する場合は、法定調書合計表を e-Taxで作成の上、法定調書と合わせて提出します(※16)。
(※16)eLTAXによる「電子的提出の一元化」によって税務署宛の給与所得の源泉徴収票と、市区町村宛の給与支払報告書を一括で提出する場合は、源泉徴収票(給与支払報告書)は、e-Tax ではなく eLTAX で作成する必要があります。また、その場合に他の法定調書を税務署に提出する必要があるときには、別途、(給与所得以外の)法定調書合計表を作成し、書面または e-Tax 等で提出することになります。
給与支払報告書の提出方法
提出方法の説明の前に、給与支払報告書の目的と用途について、以下の「ご参考欄」にまとめておきます。
- 給与支払報告書は、給与所得の源泉徴収票の内容を従業員の居住する市区町村へ報告し、各市区町村がその情報を基に給与の受給者の負担する住民税を算出するためのものです。
- 各自治体は、提出された給与支払報告書を基に、6月以降に支給される給与から特別徴収する住民税の金額を計算し、5月末までに事業者へ通知します。( 「特別徴収税額通知書(事業者用と従業員用)」および「納入書(事業者用)」を事業者へ送付します。)
- 事業者は、特別徴収税額通知書に基づき、6月以降に支給する給与から住民税を控除し、納入書によって各自治体へ納付します。
給与支払報告書は、提出先の市区町村毎に給与支払報告書(総括表)を作成し、これに添付して提出します。(受給者毎の給与支払報告書を、「総括表」に対して「個人別明細書」と呼ぶことがあります。)
総括表は、概ね下図6のようなフォーマットですが、自治体によって多少異なるので、該当する自治体のホームページ等で入手して下さい。前年に給与支払報告書を提出した自治体からは、本年分の総括表が送られてくるので、それを利用することもできます。
【図6】給与支払報告書(総括表)例
給与支払報告書の提出対象者は、契約社員、パート、アルバイトを含む全ての従業員および役員(全ての給与等の受給者)です(※17)。但し、前年中の退職者で給与等の総支給額が30万円以下の場合は、提出を省略できる特例もあります。(あくまで特例であり、提出を要請する自治体もあるので、該当者がいる場合は個別に自治体へ確認することをお勧めします。) また、退職者の場合、提出する自治体は退職日時点での住所地になります。
給与支払報告書(総括表及び個人別明細書)は、eLTAXによって複数の自治体へまとめて提出することもできます(※18)。
また、普通徴収の対象となる従業員がいる場合(※19)、対象となる自治体には給与支払報告書とともに「普通徴収切替理由書兼仕切書」を作成、提出します。本理由書兼仕切書は、概ね下図7のようなフォーマットですが、自治体によって多少異なるので、使用する場合は各自治体のホームページ等から入手してください。(基本的に普通徴収を選択する理由項目(普A〜普F)毎に人数を記入するようになっています。)
加えて、該当する個人別明細書は、摘要欄に理由符号(普A〜普F)を記入し、他の個人別明細書とは別に本理由書兼仕切書の後ろにまとめて提出します。
eLTAX で提出する場合は、該当する個人別明細書へ記入(普通徴収欄にチェックし、摘要欄に理由符号を記入)するだけで、普通徴収切替理由書兼仕切書の作成、提出は不要です。
【図7】普通徴収切替理由書兼仕切書(川崎市の例)
(※17)給与所得の源泉徴収票の提出対象が一定基準を満たすものに限られるのと違い、原則、全てが提出対象となります。
(※18)OS は Windows が前提となります(※14ご参照)。また、前述の通り eLTAX を利用すれば「電子的提出の一元化」(税務署宛の給与所得の源泉徴収票も一括して送付)も可能です。
(※19)給与所得者の住民税は、事業者による特別徴収にって納付するのが原則ですが、一定の場合、普通徴収が認められています。詳しくは、別記事「源泉所得税、住民税の納期の特例等」をご参照。
2. 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書の作成、提出
「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は、取引の相手方(報酬等の受領者)ごとに、前年1月から12月までの支払額を集計し、毎年1月末までに所轄の税務署へ提出するものです。
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書を税務署へ提出する必要があるのは、報酬等の区分ごとに以下の「提出の範囲」に該当するものだけです。また、報酬等の支払先(受領者)には交付する必要はありません(※20)。また、「提出の範囲」について、以下2点に特に注意が必要です。
- 源泉徴収の必要のない法人に対する支払についても、報酬等の区分毎に提出の範囲に該当する場合は提出する必要があります。
- 個人へ支払う報酬等で限度額以下のため源泉徴収対象外の支払についても、提出の範囲に該当する場合は提出する必要があります。
報酬の区分 | 提出の範囲 | |
(1) | 外交員、集金人、電力量計の検針人及びプロボクサーの報酬、料金 | 同一人に対する1月から12月までの支払金額の合計が、50万円を超えるもの。 |
(2) | バー、キャバレー等のホステス、バンケットホステス、コンパニオン等の報酬、料金 | |
(3) | 広告宣伝のための賞金 | |
(4) | 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬 | 同一人に対する1月から12月までの支払金額の合計が、50万円を超えるもの。但し、国立病院、公立病院、その他公共法人等に支払うものは提出不要。 |
(5) | 馬主が受ける競馬の賞金 | 1月から12月の1年間で1回の賞金金額が75万円を超える支払いを受けた方に係る年中の全ての支払金額。 |
(6) | プロ野球の選手などが受ける報酬及び契約金 | 同一人に対する1月から12月までの支払金額の合計が、5万円を超えるもの。 |
(7) | (1)から(6)以外の報酬、料金等 |
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書のフォーマットの取得及び記載要領については、国税庁「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同合計表)」などをご参照ください(フォーマットは下図8ご参照)。記入方法は、国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」の「第4 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」も参考になります。
【図8】報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書を提出する際には、法定調書合計表の該当箇所(図5の3.)に集計を記入し、他の法定調書とともに税務署へ提出します。詳しくは前述、「法定調書合計表の作成」をご参照。
(※20)給与所得の源泉徴収票は、給与等の受給者(従業員等)へ(受給者交付用のものを)交付する義務があるのと違いがあります。以下の「ご参考:報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書の取引先(受領者)への交付について」もご覧ください。
- 給与所得の源泉徴収票は、給与、賞与等を支払った場合、受給者である従業員に交付する義務があるのに対し、報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書は、受領者である取引先への発行義務はありません。
- 一般に、報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書を税務署へ提出する際に、取引先へも送付する慣例も見受けられますが、取引先への送付は義務ではありません。
- 受領者である事業者は、確定申告等にあたり源泉徴収済みの所得税の確認のため、支払者である取引先に支払調書の発行を依頼することができますが、発行を断られた場合などは、自身の帳簿等の記録により申告することになります。
以上