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会社設立の事前準備

この記事のキーワード

商標権   不正競争防止法

公開会社(会社法上の)   大会社(会社法上の)

ここでは、会社設立手続にあたって検討すべき以下の項目につき、注意点や有益と思われる情報について解説します。

商号

商号は、基本的に他社と同一住所の同一商号以外であれば選択可能です(※1)。但し、以下の点に注意が必要です。

・商標権(※2)や不正競争防止法(※3)の抵触に注意する。

詳細は注釈(※2)(※3)の通りですが、簡単にいうと「同一又は類似の商品・サービスでは他者の登録商標又はその類似表記等は使用しない」こと、及び「(地元又は全国で)有名なブランドの名称は使用しない」ことが大切です。

・「銀行」「信託」「保険会社」など、業法によって認められた会社しか使えない文字を使用しない。
・「!」「?」「@」など、商号には使えない文字があるので注意する。使える文字は法務省「商号にローマ字等を用いることについて」をご参照ください。

(※1)所在地ごとの商号は、国税庁「法人番号公表サイト」でチェックすることができます。商号のチェックは「登記・供託オンライン申請システム」の商号調査でも可能ですが、利用には同システムへの登録が必要なため、商号をチェックするだけなら「法人番号公表サイト」の方が簡単です。

(※2)商標権は、商標登録により指定した商品又は役務に関してその商標の使用を独占するとともに、その類似範囲(商品・役務の類似、商標の類似の両方とも)の使用を禁止するものです。従って、同じ名称でも全く異なる商品、サービスであれば、基本的にはその使用は可能です。但し、全国的に著名な商標で「防護商標」として登録されたものは、全く異なる商品、サービスであっても使用が禁止されます(例:G-SHOCKという名の食品を販売することはできない)。登録商標、防護商標のチェックは「特許情報プラットフォーム」で確認できます。一方、自己の氏名等を普通に用いられる方法(特殊な書体等などでないもの)で会社名として使用するのは問題ありません。詳細は特許庁「商標権の効力」をご参照ください。

(※3)不正競争防止法に関して、商号との関係では「周知表示」と「著名表示」の使用に注意が必要です。周知表示とは地元で有名な商品等の表示で、同地域で同一又は類似の表示を用いることで他人の商品、営業と混同を生じさせる恐れがある行為を指します。著名表示は、全国的に有名な商品等の表示で、それと同一又は類似の表示を自己の商品等に使用する行為を指します(この場合、混同の恐れに関係なく規制対象になります)。

印鑑の準備

商号が決まったら、印鑑の準備を進めましょう。“脱ハンコ”が進められていますが、会社の設立、運営にはまだ印鑑なしには済みません。以下は会社設立にあたって準備しておく印鑑の種類です。

・個人としての印鑑
株式会社の発起人や合同会社の社員、代表者としての実印
・会社としての印鑑
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会社の実印(代表者印)印鑑登録用。サイズに規定あり(1辺が1cm〜3cmの正方形に収まるもの)
銀行取引印銀行口座開設時に届出、以降の銀行取引に利用する。
法的には実印(代表者印)と同一でも構わないが、使用頻度が多く、破損、紛失などのリスクも考え、別に作るのが一般的です。
角印(社判)請求書、領収書、納品書など、日々の取引に利用する。
法的な印鑑ではないが、日常的に使うために用意しておきます。
ゴム印住所、会社名、代表者名、電話番号などを入れたもの。
法的な印鑑ではないが、手書きにかわる業務用として用意しておきます。

事業目的

定款に記載する会社の目的は、一度決めるとその変更には手間と費用がかかるので、慎重に検討すべき項目です。一般的には、将来のことも考えてある程度広く記載しておきたい一方、具体性のないものは取引先や金融機関からも不信感を買いかねません。具体的には、以下の観点から検討を行うことをお勧めします。目的の最後に「前各号に附帯関連する一切の業務」などと記載すれば、ある程度の柔軟性を保つことができます。

  • 許認可が必要な事業を行う場合(※4)、取得する許認可等に適合した事業目的を定款に記載しなければなりません。疑問があれば、所管する官公庁等に事前に問い合わせをして確認するのが良いでしょう。
  • 目的の記述には、具体性、明確性などが求められるため、設立登記申請の際に登記官からダメ出しされる可能性があります。それを避けるためには、事前に同種の事業をおこなっている他社の登記簿謄本を参考にしたり、事前に法務局に相談する(予約が必要)のが良いでしょう。

他社の登記簿謄本を閲覧するには、法務局へ行くより登記情報提供サービスを利用する方が便利です(※5)。登記情報提供サービスは、インターネットで登記情報を閲覧、ダウンロードできるサービスで、移動時間や待ち時間を節約できる上、手数料も安く済ますことができます。証明書としては使えませんが、内容は登記事項証明書と同じものが取得できます。また、法務局へ予約を取って相談に行く場合は、登記申請書類一式のドラフトを作成した段階で、申請書類に関するその他のポイント(各書類の押印の要否、添付書類の綴り方など)も併せて相談するのが良いでしょう。

(※4)別記事「許認可が必要な事業」もご参照。

(※5)利用するには申込手続を経て継続利用する登録利用登録費用:個人300円、法人740円)のほか、都度利用者登録して利用する一時利用があります。

本店所在地

最終的に会社の設立登記の際には、住居表示上の地番まで含めた本店の所在地を記載する必要がありますが、定款作成段階では最小行政区画(※6)までの記載に留める方法(定款記載例:「当会社は、本店を東京都新宿区に置く。」)と、地番まで記載する方法(定款記載例:「当会社は、本店を東京都新宿区西新宿7丁目×番× ×号に置く。」)の2通りがあります。

以下の理由などにより、定款には最小行政区画までの記載に留めている会社が多くみられます。

  • 設立後に本店を移転する場合、最小行政区画の範囲内であれば定款の変更が不要。定款の変更には一定の手続が必要な上、登録免許税3万円(所轄の法務局が変わればさらに3万円)も係る。
  • 定款に地番まで記載する場合、定款作成前に事務所物件を確保しておく必要がある。

尚、定款では最小行政区画までの記載とした場合、設立登記申請までに地番まで決め、発起人(合同会社の場合は、業務執行社員)による決議書(決定書)を作成し、設立登記申請に添付することになります(詳しくは、会社設立手続にて解説)。

(※6)全国の市町村、東京23区、政令指定都市の20市(札幌、仙台、さいたま、千葉、横浜、川崎、相模原、新潟、静岡、浜松、名古屋、京都、大阪、堺、神戸、岡山、広島、北九州、福岡、熊本)。

機関設計

自然人ではなく人工的に作った法人は意思決定を行う仕組みが必要で、これを機関といいます。どのような機関を設置するかは、会社の種類や規模等に応じて選択することになります。株式会社、合同会社それぞれについて解説しますので、自社のケースに応じてご参考ください。

株式会社の機関

株式会社の場合、最低限必要な機関は株主総会と取締役1名です。加えて、株式譲渡制限の有無(公開会社かどうか)や会社の規模(大会社かどうか)によって、最低限必要な機関が変わってきます(詳細は後述表1)。

一方、設置できる機関としては、株主総会、取締役のほか、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等があり、定款の定めによって設置することができます(※7)。このうち、監査等委員会と指名委員会等は、上場企業の中でも特にガバナンスを重視する企業などが任意で採用する機関であり、設置が必須となる株式会社はありません。

(※7)会社法326条。

下表1は、株式譲渡制限の有無と会社の規模によって必須となる機関をまとめたものです。

【表1】株式会社の必須機関

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会社の規模(※9)
株式の譲渡制限(※8)大会社以外大会社
非公開会社株主総会
取締役
株主総会
取締役
監査役
会計監査人
公 開 会 社株主総会
取締役会
監査役
株主総会
取締役会
監査役会
会計監査人

(※8)公開会社とは、「発行する全部又は一部の株式の譲渡について株式会社の承認を要する旨を定款に定めていない株式会社」(会社法2条5号)で、それ以外の株式会社が非公開会社です。非公開会社という呼び方は会社法にはありませんが、要するに「発行する全ての株式について、譲渡の際に株式会社の承認を要する旨を定款に定めている株式会社」です。会社法上の公開会社は上場会社を含みますが、それよりもずっと広い意味です。

(※9)大会社とは、「資本金5億円以上又は負債総額200億円以上の株式会社」( 会社法2条6号)です。(下表の緑色の部分)

負債総額(B)
資本金額(A)B < 200億円B ≧ 200億円
A < 5億円大会社以外大会社
A ≧ 5億円大会社大会社

以下、小規模会社に関連する主なポイントを箇条書きで補足します。

  • 大会社以外の非公開会社は、最低限の機関(株主総会と取締役最低1名)で済ますことができます。
  • 取締役会を設置する場合は、3人以上の取締役によって構成します。(取締役が2名以内の場合、取締役会を設置できません。)
  • 大会社以外の非公開会社が取締役会を設置した場合、監査役又は会計参与の設置が必要です。この場合、定款に定めることによって監査役の監査の範囲を会計監査に限定することができます(但し、監査役会を設置した場合、又は会計監査人を設置した場合は除く)(※10)
  • 株主総会には、毎事業年度終了後一定の時期に開催が義務となる定時株主総会と、必要がある時に招集することができる臨時株主総会があります。
  • 株主総会においては、取締役会のない会社は一切の事項について決議することができますが、取締役会を設置している会社は会社法に規定ある事項及び定款に定める事項に限り決議することができます(※11)

(※10)通常、監査役の監査には業務監査(会社法381条1項)と会計監査(同436条1項)がありますが、非公開会社は定款に定めることにより会計監査に限定することができます(同389条1項)。小規模な株式会社ではよく見られる形です。

(※11)会社法295条。

合同会社の機関

合同会社の場合、株式会社とは異なり、法定の機関はありません。業務の執行や意思決定には、主に以下の原則がありますが、定款によって自由に定めることができます。

  • 社員(出資者)が1名の場合はその社員が、社員が2名以上の場合は定款で別段の定めをしない限り、各社員が代表権を有し、業務執行の意思決定は社員の過半数で行います(※12)
  • 特定の社員を業務執行社員として定款で定めた場合は、定款に特段の定めのない限り、その各業務執行社員が代表権を有し、意思決定は、業務執行社員の過半数で行います(※12)
  • さらに業務執行社員(業務執行社員の定めのない場合は全社員が業務執行社員である)の中から、定款や定款の定めに基づく互選(※13)により代表社員を定めた場合は、その各代表社員が代表権を有し、業務に関する一切の権限を有します。

(※12)日常の業務(会社法で「常務」といいます)は、社員(業務執行社員がいる場合は業務執行社員)単独で行うことができます。

(※13)お互いの中から選挙して選び出すこと。(広辞苑)

資本金の額

株式会社、合同会社とも、制度上は最低資本金1円から設立できますが、資本金は会社の信用尺度の1つであるとも言われており、どのくらいの金額でスタートすべきか検討に悩むこともあろうかと思います。

下表2は、2022年1月〜12月の1年間に設立された株式会社、合同会社の数を、資本金額の階層別に分類したものです。これを見ると、株式会社では資本金100万円以上300万円未満が約4割と最も多く、合同会社は資本金100万円未満が半数近くを占めています。

【表2】資本金額の階層別会社設立件数(20022年)

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株式会社合同会社
設立件数割合設立件数割合
100万円未満15,88417.2%17,61247.4%
100万円以上36,78139.8%12,07832.5%
300万円以上14,25115.4%2,6817.2%
500万円以上20,88722.6%4,52312.2%
1,000万円以上2,8233.1%1650.4%
2,000万円以上1,0831.2%420.1%
5,000万円以上3670.4%200.1%
1億円以上2770.3%60.0%
10億円以上180.0%00.0%
総  数92,371100.0%37,127100.0%
出典: e-stat.go.jp のデータを編集

また、資本金額の検討に当たっては、以下の観点にもご留意ください。

  • 建設業、労働者派遣事業、旅行業など、許認可に一定の財産要件がある場合は、それを満たす資本金が必要になる。
  • 税金の面では、資本金1,000万円と1億円を境に影響がある。

このうち、税金の面での影響を下表3にまとめてみましたのでご参考ください。

【表3】資本金等の金額と税制面での影響

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項目(分岐点)                     影   響
消費税
(1,000万円)
資本金の額(及び出資の金額)が1,000万円未満の場合、設立後、売上高等が一定基準を超えるまで消費税の免税事業者となる(自ら課税事業者を選択した場合を除く)(※14)
法人住民税
(1,000万円)
資本金等の額(※15)が1,000万円以下の場合、法人住民税の均等割が最低額となる。
法人住民税は、所得に応じて負担する法人税割と、資本金等や従業員数によって負担額が決まる均等割がある(税率は自治体による)が、資本金等の額が1,000万円以下で均等割が最低額となる。例えば、東京23区内で従業員が50人以下の法人の場合、均等割は資本金等の額が1,000万円以下で年7万円、1,000万円超1億円以下で年18万円である。(赤字でもこの負担(均等割)はかかる。)
税制上の中小企業
(1億円)
資本金1億円以下が、税制上の中小企業の扱いとなり、以下のようなメリットがある。
1. 法人税の軽減税率適用
一般に23.2%の法人税率を、中小企業は年800万円の所得金額まで15%(※16)に軽減される(800万円超の所得には23.2%が適用される)。
2. 交際費等課税の特例(※17)
交際費等は、一般にそのうち接待飲食費の50%まで損金算入できるが、中小企業は年800万円まで交際費等の全額を損金算入可能(接待飲食費の50%適用とどちらか選択できる)。
3. 少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(※17)
従業員500人以下の青色申告法人である中小企業が、30万円未満の固定資産を取得した場合、年300万円まで全額を損金算入できる(通常は法定耐用年数に応じた減価償却となる)。
4. 法人事業税の外形標準課税の対象外
中小企業は、法人事業税の外形標準課税の対象外となり、税負担と申告作業が軽減される。
5. その他
以上の他にも、欠損金の繰越・繰戻、同族会社の留保金課税、中小企業投資促進税制など、中小企業を対象とした制度適用や税メリットがある。

(※14)詳細は、別記事「消費税の課税事業者となるかどうか、について」をご参照。

(※15)資本金等の額とは、「①資本金の額又は出資金の額」と「②株主等から法人に払込み又は給付をした財産の額で、資本金の額又は出資金の額として組み入れなかったもの等(例:資本準備金、加入金)」の合計額(①+②)をいう。

(※16)本来は19%のところを、租税特別措置により令和7年3月末まで15%へ軽減(延長)中。

(※17)現行の特例は令和6年3月末までの時限措置。但し過去からこの特例も延長されてきている。

以上