初回出稿日:2025年2月3日
介護休業給付金
本記事では、従業員(※1)が家族の介護をしなければならなくなった場合に、事業主として必要な手続等について解説します。
(※1)本記事の内容は、育児・介護休業法、及び雇用保険法に基づく手続であり、会社役員は対象外です。
育児・介護休業法における事業主としての義務
介護の対象となる家族
まず、育児・介護休業法(※2)における介護の対象となる家族の範囲は、下図1の通り、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫になります。
【図1】育児・介護休業法における対象家族の範囲

(※2)正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。
要介護状態
次に、育児・介護休業法における「要介護状態」とは、負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり「常時介護を必要とする状態」をいい、介護保険法の要介護認定の有無は問いません(※3)。また、「常時介護を必要とする状態」については、厚生労働省「常時介護を必要とする状態についての判断基準」をご参照ください。
(※3)介護保険法の保険給付を受けるためには、家族などが保険者である市区町村へ要介護認定(又は要支援認定)を申請する必要があります。事業主としての手続はありませんが、従業員から相談があった場合には、市区町村の介護保険担当窓口や各地の「地域包括支援センター」を紹介すると良いでしょう。
介護に関する従業員の権利
家族が要介護状態になった場合、従業員としては以下の休業、休暇、就業制限等を選択することができ、また事業主は従業員からその申出があった場合には、原則、これを認める義務があります(一部対象外となるケースについては「法定休暇のルール」の「育児・介護休業法の休業等の適用除外」をご参照ください)。
介護休業(※4)
要介護状態にある対象家族を介護し、仕事と介護を両立させる体制を整えるための休業です。期間は対象家族1人あたり最大93日で、3回まで分割して取得できます。
介護休暇(※4)
要介護状態にある対象家族の介護や世話をするために取得できるもので、介護をしながら働き続けられるようにするものです。1年に5日(対象家族が2人以上の場合は10日)を限度として取得でき、休暇の単位は1日又は1時間です。
就業制限等
項目 | 内容 | 根拠条文 |
---|---|---|
所定外労働の制限(残業免除) | 要介護状態にある対象家族を介護する労働者が請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはならない。 | 第16条の9 |
時間外労働の制限 | 要介護状態にある対象家族を介護する労働者が請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、1ヶ月につき24時間、1年につき150時間を超える時間外労働をさせてはならない。 | 第18条 |
深夜業の制限 | 要介護状態にある対象家族を介護する労働者が請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、午後10時から午前5時までの間において労働させてはならない。 | 第20条 |
所定労働時間の短縮措置等 | 要介護状態にある対象家族を介護する労働者が希望すれば利用できる、連続する3年以上の期間における短時間勤務制度等を制度化、運用しなければならない。 | 第23条3項 |
(※4)介護休業と介護休暇はどちらも要介護状態にある家族を介護するための休みですが、前者は介護をしながら仕事を続けられる体制を整えるための比較的長期の休みであるのに対し、後者は継続的な介護のための休みという位置付けの違いがあります。
雇用保険の介護休業給付金の申請
雇用保険の被保険者(※5)が介護休業を取得した場合には、一定の要件のもと雇用保険から介護休業給付金が支給されます。
(※5)雇用保険の一般被保険者と高年齢被保険者が対象です(雇用保険の被保険者の区分は「労働保険の適用基準」をご参照)。
- 介護休業給付金の支給要件
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以下の要件を全て満たした場合に支給単位期間(※6)について支給されます。
- 雇用保険の被保険者であること(一般被保険者、又は高年齢被保険者)
- 対象家族を介護するための休業を取得したこと(同じ家族につき最大93日を3回まで分割取得可)
- 介護休業を開始した日前2年間(※7)に、「みなし被保険者期間」が通算して12ヶ月以上あること
- 「みなし被保険者期間」とは、介護休業を開始した日を被保険者資格喪失日とみなして計算した(失業保険の受給要件である)被保険者期間に相当する期間をいいます。「被保険者期間」は、「離職日から1ヶ月ごとに区切った期間に、賃金支払の基礎となる日数が11日以上ある月、又は、賃金支払の基礎となる労働時間数が80時間以上ある月」を1ヶ月として計算します。
- 1支給単位期間中の就業日数が10日以下であること(※8)
(※6)「支給単位期間」とは、介護休業を開始した日から1ヶ月ごとに区分した各期間(その1ヶ月の間に介護休業終了日を含む場合は介護休業終了日までの期間)であって、介護休業を開始した日から起算して3月を経過するまでの期間に限ります。従って、例えば5月15日に介護休業を開始し連続して休業する場合の支給単位期間は、最大で、1回目が「5月15日〜6月14日」、2回目が「6月15日〜7月14日」、3回目が「7月15日〜8月14日」となります。
(※7)介護休業を開始した日前2年間に疾病、負傷等により引続き30日以上の賃金の支払を受けることができなかった被保険者については、当該理由により賃金を受けることができななった日数を2年に加算した期間(その期間が4年を超えるときは、4年間)とします。
(※8)介護休業を終了した日の属する支給単位期間の場合は、就業日数10日以下であるとともに、全日休業している日が1日以上あることが必要です。
- 介護休業給付金の支給額
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介護休業給付金の額は、1支給単位期間につき以下の式で計算されます。
1支給単位期間の支給金 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数 × 67% 「休業開始時賃金日額」とは、介護休業を開始した日を被保険者資格喪失日とみなして算出される(失業保険の計算の基礎となる)賃金日額に相当する額をいいます。「賃金日額」は、(前述の)被保険者期間として計算された最後の6ヶ月間に支払われた賃金(※9)の総額を180で割った額をいいます。(上限額、下限額について後述。)
「支給日数」は原則30日、最後の支給単位期間についてはその支給単位期間の日数です。
- 上限額と下限額
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休業開始時賃金日額には上限、下限があり、2025年7月31日までは以下の通りです(※10)。
休業開始時賃金日額の上限額 17,270円 同、下限額 2,869円 - 賃金との調整
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支給単位期間に事業主から賃金が支払われた場合は、以下の通り減額調整が行われます。
支払われた賃金の額 給付金の減額(支給される給付金の額) 「休業開始時賃金日額 × 支給日数」の13%以下 減額なし(全額が支給される) 「休業開始時賃金日額 × 支給日数」の13%超、80%未満 賃金と給付金の合計が「休業開始時賃金日額 × 支給日数」の80%を超える額が減額となる(「休業開始時賃金日額 × 支給日数」の80%と賃金の差額が支給される) 「休業開始時賃金日額 × 支給日数」の80%以上 給付金の全額が減額となる(給付金は支給されない)
(※9)臨時に支払われる賃金及び3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く。
(※10)勤労統計をもとに毎年8月1日に見直しがあります。
- 介護休業給付金の申請方法
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給付金の支給を受けるには、事業主が以下の手続を行います。
スクロールできます何を どこへ いつまでに ① 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書 所轄の公共職業安定所 介護休業を終了した日の翌日から起算して2ヶ月を経過する日の属する月の末日 ② 介護休業給付給付金支給申請書 ①、②とも書式は公共職業安定所で入手できるほか、②はハローワークインターネットサービス(介護休業給付金申請書)からダウンロードすることもできます。
申請書の記載方法、添付書類など申請方法の詳細や、介護休業給付金制度全般については厚生労働省「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」、厚生労働省「雇用保険事務手続きの手引き」の第11章「介護休業給付について」などが参考になります。また、e-Gov による電子申請も可能です。
以上