初回出稿日:2024年11月25日
保険年度(労働保険の) 概算保険料(労働保険の) 確定保険料(労働保険の) 年度更新(労働保険の) メリット制(労災保険の)
延納(概算保険料の) 一般拠出金 増加概算保険料(労働保険の)
労働保険料(雇用保険料と労災保険料)は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間を単位(「保険年度」といいます)として計算、納付することになっており、毎年6月1日から7月10日(※1)の間に、当年度分の概算保険料の申告と納付、及び前年度分の確定保険料の申告と精算を合わせて行います。
つまり、労働保険料は原則として年に1回、一定時期に申告、納付及び精算手続を行うもので、これを「年度更新」といいます。
【図1】年度更新のイメージ図
尚、初めて労働保険関係が成立したとき(初めて従業員を採用した場合など)には、その日から50日以内に概算保険料を申告・納付しますが、この場合の手続は「労働保険の加入手続」ご参照ください(※2)。以下、本記事では労働保険の年度更新手続について解説します。
因みに、保険料の負担については、労災保険料は全額事業者負担です。雇用保険料は一部労働者負担があり、その分を給与から控除しますが、申告・納付はまとめて事業者が行います。
(※1)該当日が土曜日又は日曜日に当たる場合、翌月曜日へ繰り越されます。
(※2)簡単に言えば「保険関係成立届」の後、「概算保険料申告書、納付書」により概算保険料を納付します。
労働保険の年度更新手続
労働保険の加入手続(※3)を行うと、毎年5月末頃に労働局や労働基準監督署から年度更新申告書が送られてくるので、通常それに従い手続を行います(※4)。
- 申告・納付先
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所轄の都道府県労働局、労働基準監督署(※5)又は金融機関(※6)
- 提出物
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労働保険の年度更新申請書(「労働保険 概算・増加概算・確定保険料 申告書」)を記入して申告、納付手続を行います。
尚、e-Gov による電子申請でも可能です(※7)。
(※3)「労働保険の加入手続」ご参照。労働保険は、一般に、適用要件を満たせば(事業者の意思に関わらず)当然に加入するものなので、「労働保険に加入する」とは言わず、「労働保険関係が成立する」というのが正式です。但し、適用要件を満たした後、一定の手続が必要になるので、本サイトでは「加入手続」と呼ぶことがあります。
(※4)年度更新申告書の書き方についての全般的な解説については、厚生労働省「労働保険年度更新申告書の書き方」が参考になります。
(※5)二元適用事業者の雇用保険料の納付手続は労働基準監督署では扱えません。労働局又は金融機関での手続が必要です。一元適用事業者と二元適用事業者の違いは「労働保険の加入手続」をご参照。
(※6)日銀(本店、支店、代理店、歳入代理店(銀行、信用金庫の本支店、ゆうちょ銀行等))
(※7)e-Gov で年度更新手続を行なった場合、納付は口座振替、インターネットバンキング、電子納付(Pay-easy)などが利用できます。電子申請について詳しくは、厚生労働省「労働保険関係手続の電子申請について」などをご参照ください。尚、資本金1億円超の法人など、特定の法人については電子申請が義務化されています。
年度更新の計算
ここで、保険料の計算方法について説明します(※8)。
- 労災保険料の計算
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原則、以下の計算によります。
労災保険料=全労働者の賃金総額(※9)(確定額・見込額)× 労災保険率 - 雇用保険料の計算
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原則、以下の計算によります。
雇用保険料=雇用保険加入の全労働者の賃金総額(確定額・見込額)× 雇用保険率
計算の対象となる労働者は、それぞれ以下の通りです。
- 労災保険の場合は、正社員だけでなく兼務役員やパート、アルバイト、臨時雇いなどを含みます。出向労働者は、賃金が出向元で支払われていても、出向先の賃金に含めて計算します。但し、派遣社員は派遣元で計算します。(別記事「労働保険の適用基準」で解説した「労災保険の適用労働者」が該当します。)
- 雇用保険の場合は、労働時間が週20時間以上の労働者など、雇用保険の被保険者が対象です。出向労働者は、出向者が生計を維持するために必要な主たる賃金を受けている事業所の賃金に含めて計算します。派遣社員は派遣元で計算します。(別記事「労働保険の適用基準」における「日雇労働被保険者」以外の「雇用保険の被保険者」が該当します(※10)。)
- 前出(※4内)厚生労働省「労働保険年度更新申告書の書き方」の「6 労働保険対象者の範囲」も参考になります。
賃金総額については以下の通りです。
- 確定保険料の場合は、前保険年度の実績額(支払が確定した分、つまり締め日が前保険年度内のもの)、概算保険料の場合は現保険年度の見込額です。見込額が前保険年度実績額の0.5倍以上2倍以下の時は、前保険年度実績額を現保険年度の賃金総額とします。尚、賃金総額の1,000円未満の端数は切捨てます。
- 賃金総額の賃金には、給与、手当、賞与など労働の対償として払われるものすべてが含まれます。詳しくは、前出(※4内)厚生労働省「労働保険年度更新申告書の書き方」の「7 労働保険対象賃金の範囲」が参考になります。
保険率は、労災保険と雇用保険それぞれが業種によって決まっています(適宜改定されます)。厚生労働省「労災保険率」、同「雇用保険率」をご参照ください。
(※8)継続事業の一般保険料について説明します。単独の工事事業のような有期事業、労働者以外の中小事業主などが特別加入する場合などの保険料は別の計算になります。
(※9)建設業の場合、原則として元請が下請の労働者を含めて労災保険料を納付する義務があり、賃金総額の把握が困難な場合には、賃金総額に代えて「請負金額 × 労務費率」とするなど、一部例外があります。因みに、労務費率表は厚生労働省「労災保険率等」からご覧になれます。
(※10)日雇労働被保険者は、(本記事の対象とする)一般保険料ではなく印紙保険料の対象であり別計算になります。
最後に、労働保険の納付に関連するトピックについて以下に補足させて頂きます。
労災保険の「メリット制」について
労災保険率には、業種ごとの一律の料率に加え、一定期間の保険給付等の実績に応じて保険率を加減する仕組み(「メリット制」といいます)があります。メリット制による料率改定の計算は複雑ですが、適用になる場合は5月末頃に送られてくる年度更新申告書に同封される労災保険率決定通知書によって確認することができます。
概算保険料の「延納」について
概算保険料は原則として6月1日から7月10日の間に一括して支払いますが、概算保険料が40万円以上(労災保険か雇用保険のどちらか一方の保険関係のみ成立している場合は20万円以上)の場合は、概算保険料の納付を3回に分けて納付することができます(これを概算保険料の「延納」といいます)。
【表1】延納の場合の期間と納期限(※11)
区 分 | 第1期 | 第2期 | 第3期 |
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期 間 | 4/1 〜 7/31 | 8/1 〜 11/30 | 12/1 〜 3/31 |
納期限 | 7月10日 | 10月31日 | 1月31日 |
(※11)納期限が土曜日又は日曜日に当たる場合、翌月曜日へ繰り越されます。また、保険年度の途中で保険関係が成立した場合など、詳細は厚生労働省「労働保険料の申告・納付」をご参照ください。
「一般拠出金」について
一般拠出金とは、平成18年に施行された石綿健康被害救済法により、被害者の救済費用に充てるため、労災保険の保険関係が成立している事業者から毎年度徴収することになったものです。(雇用保険のみ適用の事業者は対象外です。)
一般拠出金については、概算払いはなく、前保険年度の労災保険料の基になる賃金総額に一般拠出金率(令和6年度現在、業種を問わず1,000分の0.02)を掛けた金額を確定納付します。一般拠出金は全額事業者の負担となります。
「増加概算保険料」について
概算保険料の計算の元となる賃金総額が増加した場合であって、次のいずれの要件にも該当するときは、事業者は増加概算保険料を納付しなければなりません。
① | 増加後の賃金総額の見込額が、増加前の見込額の2倍を超えること |
② | 増加後の賃金総額の見込額に基づき算定した概算保険料の額と、既に納付した概算保険料との差額が13万円以上であること |
該当する場合には、増加後の賃金総額の見込額に基づき算定した概算保険料の額と、既に納付した概算保険料の額との差額を、賃金総額の増加が見込まれた日の翌日から起算して30日以内に、増加概算保険料申告書に所定の納付書を添えて、申告・納付しなければなりません。e-Gov による電子申請、インターネットバンキング又は電子納付(Pay-easy)での納付も可能です(但し、口座振替による納付はできません)。
以上