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労働保険の適用基準

初回出稿日:2024年2月5日

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暫定任意適用事業(労働保険の) 

日雇労働被保険者(雇用保険の) 短期雇用特例被保険者(雇用保険の) 高年齢被保険者(雇用保険の) 一般被保険者(雇用保険の)

雇用保険の適用除外 マルチジョブホルダー(雇用保険の) 

事業を開始したら労働保険の適用の有無について確認し、必要な手続を行わなければなりません(※1)。本記事では、労働保険への加入が必要になる基準について解説します。

労働保険の適用基準には、事業(所)(※2)としての基準と労働者ごとの基準があり、以下、順に解説していきます。

尚、適用基準を満たした場合の加入手続については、別記事「労働保険の加入手続」にてカバーします。

(※1)労働保険の概要については「労働保険・社会保険の基礎知識」をご参照。

(※2)労働保険は、支店や営業所など個々の事業所ごとに適用されるのが原則で、例外的に(手続を経て)本店などで一括して管理することができるようになっています。但し、一般的に労働保険の対象を適用事業と呼ぶことになっているので、本記事でも以下それに従っています。

1.事業としての基準

労災保険、雇用保険では、労働者を1人でも使用すれば、原則、事業として保険の適用対象となり、保険関係の成立手続を行う必要があります。例外は暫定任意適用事業に該当する場合ですが、具体的には下図1のフローチャート及びその下の各項目の説明に従って、自身の事業が適用対象かどうかご判断ください。尚、図1のフローチャートは労災保険と雇用保険で共通ですが、各項目の内容には違いのある場合がありますので、ご留意下さい。

【図1】労働保険の適用基準

以下、図1の各項目について解説します。

(1)労働者を使用

ここでの労働者には、所謂、正社員だけでなく、契約社員、アルバイト、パート、臨時雇い、日雇労働者、外国人労働者も含みます。

(2)暫定任意適用事業に該当

暫定任意適用事業とは、労災保険、雇用保険の適用が当分の間、任意とされている事業です。労災保険、雇用保険で対象事業に若干の違いがあります。

労災保険の暫定任意適用事業

次表1の要件を満たす個人事業の農林水産業が該当します(つまり法人は業種に関わらず全て適用事業です)。

【表1】労災保険の暫定任意適用事業(個人事業に限る)

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事業の種類暫定任意適用事業となる条件
農業常時使用労働者数5人未満、且つ、
特定危険有害作業(※3)を行う事業ではない
事業主が特別加入(※4)していない
水産業総トン数5トン未満の漁船、又は河川、湖沼、特定水面(※5)で総業する漁船で操業
林業常時労働者を使用せず、且つ、年間使用延労働者数が300人未満

(※3)毒劇薬や有害ガス、重量物の扱い、著しい振動や騒音、暑熱または寒冷下での作業など、旧労働省告示第35号別表第1に規定する作業

(※4)中小事業主など、労働者以外でも業務実態等を考慮して一定の要件の下で労災保険に加入することを認めている制度

(※5)陸奥湾、富山湾、若狭湾、東京湾、伊勢湾、大阪湾、有明海、八代海、大村湾、鹿児島湾の水面(旧労働省告示120号別表第2)

雇用保険の暫定任意適用事業

次の2つの条件を両方とも満たす個人事業が該当します。

  • 農林水産業(船員が雇用される事業を除く)であること
  • 常時5人未満(※6)の労働者を使用すること

(※6)「5人」のカウントにあたっては、雇用保険の被保険者(詳細後述)に該当しない労働者も含めてカウントします。但し、被保険者に該当しない労働者のみ使用する事業主の事業については、人数にかかわらず適用事業として取り扱う必要はありません。

労災保険、雇用保険とも個人事業の農林水産業が任意適用の対象である点は共通ですが、細かい点に違いがあります。例えば、個人事業の林業では、常時1人でも労働者を使用していれば労災保険の強制適用となりますが、雇用保険は任意適用になります。

(3)労働者又は事業主の意思で任意加入

暫定任意適用事業に該当する場合、労災保険、雇用保険に加入する義務はありませんが、任意で加入することは可能です。特に、基準以上(過半数又は2分の1以上)の労働者が希望する場合には事業主は加入を申請しなければなりません。

労災保険の任意適用
  • 事業主が希望するときは加入申請可能(労働者の同意は不要(労働者に保険料の負担ないため)
  • 労働者の過半数が希望するときは、事業主は加入申請しなければならない
雇用保険の任意適用
  • 事業主が希望するときは、労働者の2分の1以上の同意を前提(労働者に保険料の負担あるため)に加入申請可能
  • 労働者の2分の1以上が希望するときは、事業主は加入申請しなければならない

2.労働者ごとの基準

労働者ごとの適用基準については、労災保険と雇用保険で大きな違いがあります。

まず、労災保険の場合は、適用事業の労働者はその勤務形態や意思に関わらず原則すべてが適用労働者となります(労働者ごとの資格取得手続はなく、また労働者には保険料の負担もありません)。(労災保険では、被保険者ではなく適用労働者と呼んでいます。)

一方、雇用保険の場合は、一定の勤務条件を満たす労働者が被保険者となり、また、被保険者はその勤務条件等によって幾つかの種類に分かれます(被保険者は資格取得手続も必要です)。

労災保険の適用労働者

上述の通り、労災保険の場合、原則すべてが適用労働者となります。所謂、正社員だけでなく、契約社員、アルバイト、パート、臨時雇い、日雇労働者、外国人労働者(不法就労者を含む)も含みます。但し、個人事業主、法人の役員(※7)、個人事業主の同居の家族(※8)は、一般に労災保険の適用外になります。また、派遣労働者は派遣元事業において適用労働者になります。

(※7)業務執行権がなく、実質的に労働者性がある場合は適用労働者となる場合があります。曖昧な場合は労働基準監督署へ相談すると良いでしょう。

(※8)同居の家族と共に一般従業員を使用しており、就労形態が一般従業員と同様であれば家族従事者であっても適用労働者となる場合があります。

雇用保険の被保険者

雇用保険法における被保険者は、(労災保険と違って)細かい規定、区分があります。

まず、被保険者には、①一般被保険者、②高年齢被保険者、③短期雇用特例被保険者、④日雇労働被保険者の4種類の区分があり、そのいずれにも該当しないものが、被保険者ではないことになります。被保険者に該当するかどうかは、下図2のフローチャート及びその下の各項目の説明をご覧ください。因みに、図2のフローチャートでは、被保険者の種類として、日雇労働→短期雇用特例→高年齢→一般、の順に適用を判定することになっていますが、これは被保険者の該当優先順位によるものです。例えば、日雇と高年齢の両方に該当する労働者は日雇労働被保険者に、高年齢と一般の両方に該当する労働者は高年齢被保険者に該当することになります。

尚、個人事業主、法人の役員(※9)、個人事業主の同居の家族(※10)は一般に被保険者の適用外になり、派遣労働者については、該当する場合、派遣元事業において被保険者となります。

(※9)代表取締役、監査役以外で、取締役であると同時に部長、支店長、工場長のように従業員的な実態があり、役員報酬より賃金の方が多額である場合や、就業規則等が適用されている場合は、被保険者となります。

(※10)同居の家族と共に一般従業員を使用しており、就労形態が一般従業員と同様であれば家族従事者であっても被保険者となる場合があります。

【図2】雇用保険の被保険者の適用基準

① 適用事業に雇用される労働者

雇用保険について、図1の(1)〜(3)の結果、適用事業に該当する事業に雇用される労働者です。

② 日雇労働被保険者に該当

日々雇用される者又は30日以内の期間を定めて雇用される者で、次のいずれかに該当する者です。

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適用区域(※11)に居住する者
適用区域外の地域に居住し、適用区域内にある適用事業に雇用される者
適用区域外の地域に居住し、厚生労働大臣が指定する適用区域外の地域にある適用事業に雇用される者
上記のほか、日雇労働被保険者の任意加入の申請をし、公共職業安定所長の認可を受けた者

(※11)公共職業安定所までの交通が便利な区域のことで、①東京都23区、②公共職業安定所の所在する市町村であって厚生労働大臣が特に指定する区域(除外区域)以外の区域、③前記①又は②に隣接する市町村の全部又は一部の区域であって厚生労働大臣が指定する区域、をいいます。日雇労働被保険者が失業認定を受ける場合、1日毎に公共職業安定所に出頭して行うため、住所地または事業地が適用区域等にあることが原則で、加えて(最後の項目である)任意加入制度がある建付になっています。

但し、前2ヶ月の各月において18日以上同一の事業主の適用事業に雇用された場合、又は、同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用された場合は、原則として(※12)日雇労働者として扱われなくなり、短期雇用特例被保険者、高年齢被保険者又は一般被保険者になります(図2の③以降のステップに進みます)。

(※12)日雇労働被保険者が申請して公共職業安定所長の認可を受けた場合は、引き続き日雇労働被保険者となることができます。

③ 短期雇用特例被保険者に該当

季節的に雇用される者のうち、次のいずれにも該当しない者です。

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4ヶ月以内の期間を定めて雇用される者(※13)
1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者

(※13)4ヶ月以内の期間を定めて季節的に雇用される者であっても、当初の所定の期間を超えて引き続き同一の事業主に雇用されるに至った場合は、その所定の期間を超えた日から短期雇用特別被保険者となります。(但し、週所定労働時間が30時間未満である場合又は所定の期間と延長された期間を通算して4ヶ月を超えない場合を除く。)

但し、短期雇用特例被保険者が、同一事業主に引き続いて1年以上雇用されるに至ったときは、その1年以上雇用されるに至った日(切替日)以降、高年齢被保険者又は一般被保険者になります(図2の④以降のステップに進みます)。

④ 適用除外に該当

以下に該当する者は、原則として雇用保険法は適用されない(つまり被保険者とならない)とされます。(雇用保険法第6条に規定する「適用除外」。但し、図2のフローチャートにより日雇労働被保険者、短期雇用特例被保険者、高年齢被保険者に該当する場合は、これに関係なく当該被保険者になります。)

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1週間の所定労働時間が20時間未満である者
同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者(※14)(前2ヶ月の各月において18日以上同一の事業主の適用事業に雇用された者を除く)
季節的に雇用される者であって、次のいずれかに該当する者
4ヶ月以内の期間を定めて雇用される者
1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者
学校教育法に規定する学校、専修学校又は各種学校の学生又は生徒であって、一定の者(※15)(所謂、昼間学生等)
船員であって、漁船(政令で定めるものに限る)に乗り組むため雇用される者(1年を通じて船員として適用事業に雇用される場合を除く)(※16)
国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であって、一定のもの(※17)

(※14)雇用契約が31日未満であっても、雇止めの明示がなく、同様の契約により31日以上雇用されている実績があれば、31日以上雇用される見込みがあると判断されます。

(※15)雇用保険法施行規則3条2の規定により、以下①〜④に該当しない者をいう。(つまり、①〜④は被保険者になります。)①卒業を予定している者であって、適用事業に雇用され、卒業した後も引き続き当該事業に雇用されることとなっているもの、②休学中の者、③定時制の課程に在学する者、④前記①〜③に準ずる者として厚生労働省職業安定局長が定めるもの。

(※16)漁船に乗り組むため雇用されている船員は、1年のうち一定期間だけ就労することを前提とした賃金体系となっている場合があるため、原則適用除外としつつ、「1年を通じた雇用の場合」は被保険者となっています。

(※17)本サイトの対象者ではないので詳細は省略します。

⑤ 高年齢被保険者の特例に該当

65歳以上の労働者の場合、1つの事業所における 1週間の所定労働時間が20時間未満であっても、雇用保険の被保険者になる場合があるので注意が必要です。それは次の条件を全て満たす場合です。

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複数の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者
うち2つの事業主の適用事業(各事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上のものに限る)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上
当該2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上

これは(高齢者の)マルチジョブホルダー制度と呼ばれるもので、雇用保険法改正により令和4年1月1日にスタートした制度です(※18)

この制度を利用する場合は、労働者が雇用先である2つの事業所(3つ以上ある場合は2つを選択)から必要書類を取得し、自らの住所地を管轄する公共職業安定所へ申し出る必要があります。事業主は、マルチジョブホルダーの対象者が手続に必要な証明(雇用の事実や所定労働時間など)を依頼する場合、速やかに対応する必要があります。そして事業主は、マルチジョブホルダーが(この特例による)高年齢被保険者の資格を取得した日から、雇用保険料の納付義務が発生し、一般の被保険者と同様、雇用保険料の控除、納付手続を行うことになります。マルチジョブホルダーが申出を行ったことを理由に、解雇や雇止め、労働条件の不利益変更などを行うことは法律で禁じられています。

(※18)逆に言えば、(高年齢でない)一般被保険者が同時に複数の適用事業と雇用関係にある場合は、その者が生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける1つの雇用関係についてのみ被保険者となることができ、その雇用関係について週所定労働時間が20時間以上などの要件を満たす必要があります。

以上