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給与に関する基礎知識

本記事のキーワード

給与 賃金 報酬

給与計算期間 給与締切日 給与支払日

賃金支払の5原則

最低賃金

平均賃金 休業手当 解雇予告手当

給与とは、言わずと知れた従業員へ支払う仕事の対価ですが、法律上いろいろな決まり事があります。本記事では、経営者として決して「知らなかった」では済まない重要事項を中心にまとめてみました。

「給与」「賃金」「報酬」について

一般に労働の対価として支払われるものに、給与、賃金、報酬、給料、手当、月給、日当、賞与など様々なものがありますが、一体どういう違いがあるのでしょうか。

  • まず、基本として押さえておきたいのは「給与」「賃金」「報酬」の3つです。この3つはそれぞれ法律で定義された呼び名であり、その他、給料、手当、賞与などは、これらの要素であったり別名、総称、あるいは通称などといったものになります。

【表1】「給与」、「賃金」、「報酬」の定義

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給与「給与」は主に所得税など税務上用いられる用語です。所得税法では給与所得について、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与ならびにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。」(所得税法28条)とあります。
賃金「賃金」は主に労働法関係で用いられる用語です。労働基準法では労働の対償として使用者が労働者に支払うものとして、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」(労働基準法11条)とあります。(雇用保険法4条にも同様な定義があります。)
報酬「報酬」は主に社会保険関係で用いられる用語です。健康保険法では労働者が労働の対償として受けるものとして、「この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。」(健康保険法3条5項)とあります。(厚生年金保険法3条にも同様な定義があります。)
  • 「給与」「賃金」「報酬」は、いずれも労働の対価をまとめて呼ぶものですが、その中身は根拠法による違いもあります。例えば、通勤手当は課税限度までは非課税なので「給与」には含まれませんが、「賃金」、「報酬」には含まれます。また、年3回以内で支給される賞与は、健康保険や厚生年金保険の「報酬」には含まれませんが、「給与」、「賃金」には含まれる、など。

本サイトでは、税務、労働法、社会保険関係など多岐にわたる手続をカバーしていますが、給与等の呼び方について以上のような違いがあることを意識しておくと解りやすいと思います。本記事では、(根拠法を意識しない)一般用語としては「給与」と呼んでいます(記事のタイトルもそうです)が、以下においては、主に労働法上の決まり事について説明しますので「賃金」という言葉が多く使われることになります。

給与に関する決まり事

給与の構成

給与は、一般に基本給と諸手当からなります。諸手当をどのように定めるかは事業者が任意に決めることですが、法定時間外労働手当、深夜労働手当、法定休日労働手当は、該当する場合に必ず支払わなければなりません(※1)。また、賃金体系は、賃金規定(就業規則の一部であることが多い)がある場合、そこで規定するのが一般的です(※2)。新たに従業員を雇用する場合には、賃金に関する条件を労働条件通知書にて明示する必要があります(※3)

(※1)加えて、36協定を締結して労働基準監督署へ届出る必要があります。36協定については、別記事「労使協定について」をご参照。

(※2)就業規則については、別記事「就業規則に関する必要最低限の知識」をご参照。

(※3)労働条件通知書については、別記事「労働条件の明示」をご参照。

賃金の締切日と支払日

給与の計算は一定の期間毎に行いますが、この期間のことを「給与計算期間」といい、一給与計算期間の最後の日を「締切日」(又は「締め日」)といいます。また、給与は決まった日に支払いますが、この決まった日のことを「支払日」といいます。

給与の締切日、支払日は事業者がそれぞれ定めますが、採用時には労働条件通知書で明示し、賃金規定(就業規則)がある場合はそこでも明示する必要があります。

一般的には「月末締め翌月20日払い」や「15日締め当月25日払い」のように支払日が締切日より後に来るのが普通ですが、「月末締め当月25日払い」のように支払日が締切日より前にくる設定も可能です。後者の場合、基本給や毎月定額の手当など固定分は締切日まで(未経過分も含めて)支払い、残業代などの変動分については未経過分は翌月に計算して翌月の固定分と一緒に支払うことになります。

賃金支払の5原則

賃金の支払方法については、労働基準法24条により以下の5原則があるので遵守しましょう。

【表2】賃金支払の5原則

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5原則内容例外
①通貨払賃金は通貨で支払わなければならない。
(小切手や物で支払ってはならない。)
通勤定期券、住宅貸与の現物支給(※4)
銀行口座や証券総合口座への振込(※5)
退職金の銀行振出小切手、郵便為替による支払(※5)
②直接払賃金は労働者に直接支払わなければならない。
(仲介人や代理人に支払ってはならない。)
本人が病気で欠勤の場合に家族等の使者への支払
派遣先の使用者を通じての支払
③全額払賃金は全額支払わなければならない。
(貸付金の返済その他を控除してはならない。)
所得税、住民税、社会保険料(※6)
生命保険料、社宅費、社員会費などの控除(※7)
④毎月1回以上払賃金は毎月1回以上支払わなければならない。臨時に支払われる賃金
結婚手当、退職金、賞与など
1ヶ月を超えて支払われる精勤手当、勤続手当など
⑤一定期日払賃金は毎月一定の期日に支払わなければならない。

(※4)労働協約による定めが必要。従って、労働組合のない事業所にはこの例外は適用できない。労働協約については、別記事「就業規則に関する必要最低限の知識」をご参照。

(※5)労働者の同意が必要。

(※6)法令の定めによる例外

(※7)控除の対象となる具体的項目を定めた労使協定(賃金控除協定)が必要。労使協定については、別記事「労使協定について」をご参照。

最低賃金について

最低賃金とは、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額であり、最低賃金法に基づき国が定める限度額です。仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。また、最低賃金以上の賃金を支払わない場合には罰則規定もあります。

最低賃金には、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2種類があり、両方が適用される場合には、使用者は高い方の額以上を支払わなければなりません。

  • 地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者(パート、アルバイト等雇用形態を問わず)と使用者に適用されます。
  • 特定(産業別)最低賃金は、都道府県ごとに(又は全国一律で)特定の産業に対し、その産業の基幹的労働者と使用者に適用されます。基幹的労働者とは、当該産業の特有/主要な業務に従事し、以下の者を除く労働者です。
    • 18歳未満又は65歳以上の者
    • 雇入れ後一定期間未満(※8)の技能習得中の者
    • その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する者(※8)

(※8)具体的には特定産業ごとに規定されています。

尚、派遣労働者には、派遣先の最低賃金が適用されます。都道府県別などの最低賃金の具体的な内容は、厚生労働省「必ずチェック 最低賃金」からご確認頂けます。

最低賃金の対象となる賃金

最低賃金の規定を適用する場合、以下の賃金は算入しないとされています。つまり、以下のように特殊な手当、時間外手当や休日手当を除いた”通常”の賃金ベースで最低賃金以上である必要があります。

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臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
22:00から翌日5:00までの労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分
精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

最低賃金以上であるかの確認方法

最低賃金は、基本的に時給ベースで定められているため、日給、月給ベースの場合を含めた確認は、以下の方法によります。

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① 時間給制の場合時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)
② 日給制の場合日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間給)

但し、日額で最低賃金が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合は、
日給 ≧ 最低賃金額(日額)
③ 月給制の場合月給÷1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)

最低賃金の例外

一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、次の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として、個別に最低賃金の減額の特例が認められています。

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精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
試の使用期間中の者
基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている者のうち、厚生労働省令で定める者
軽易な業務に従事する者
断続的労働に従事する者

平均賃金について

ここでいう平均賃金とは統計的な数字ではなく、事業者が一定の場合に労働者へ支払わなければならない休業手当や解雇予告手当などの算出に使われる基準で、労働基準法12条で規定されているものです。

平均賃金が使われるケース

まずは、平均賃金が使われる具体的なケースについて下表3をご覧ください。

【表3】平均賃金が使われる主なケース

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平均賃金を用いる規定算定事由発生日(※9)手当等の額
休業手当(※10)
(労働基準法26条) 
休業を与えた日
(2日以上にわたるときは、その最初の日)
平均賃金の60%以上
解雇予告手当(※11)
(労働基準法20条)
労働者に解雇の通告をした日平均賃金(30日分以上)
年次有給休暇中の賃金(※12)
(労働基準法39条)
年次有給休暇を与えた日
(2日以上にわたるときは、その最初の日)
災害補償
(労働基準法76条〜82条、労災保険法)
死傷の原因となる事故発生の日、
又は診断によって疾病の発生が確定した日
補償内容による
減給の制限(※13)
(労働基準法91条)
減給制裁の意思表示(通知など)が労働者に到達した日1日当り平均賃金の50%以内
(且つ一賃金支払期間で総賃金の10%以内)

(※9)平均賃金を算出する基準日です。具体的には後述「平均賃金の算出方法(原則)」をご参照。

(※10)使用者の都合により労働者を休業させた場合には、休業させた所定労働日について平均賃金の60%以上の賃金を支払わなければなりません。これを休業手当と呼んでいます。

(※11)やむを得ず労働者を解雇しようとする場合は、少なくとも30日以上前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。後者を一般に解雇予告手当と呼んでいます。

(※12)有給休暇取得中の賃金の1つとして選択できます

(※13)就業規則で労働者に対して減給の制裁を定める場合、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない、とされています。

平均賃金の算出方法(原則)

ここでは算出方法の原則について解説します。ここでの原則に加え、後述する最低保障と端数処理についてもご留意ください。

平均賃金は、「その算定事由発生日の前日以前3ヶ月間の賃金総額を、その期間中の総日数(休日を含む暦日数)で除した金額」と規定されます。但し、賃金締切日がある場合は、前日ではなく直前の賃金締切日から3ヶ月を起算します。

但し、次の賃金、期間については平均賃金の計算に含まないこととされています。

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除外される賃金
臨時に支払われた賃金(結婚手当、私傷病手当、見舞金、退職金など)
3ヶ月を超える期間毎に支払われる賃金(賞与など)(※14)
通貨以外のもので支払われる賃金のうち、法令や労働協約に定めがない賃金                      
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除外される期間(※15)
業務上の負傷又は疾病により療養のために休業した期間
産前産後休業の期間
使用者の責に帰すべき事由により休業した期間
育児休業、介護休業の期間
試みの使用期間(試みの使用期間中に算定事由が発生した場合は、その期間中の日数及び賃金により平均賃金を計算します)

(※14)ここでいう「3ヶ月」は支払い間隔ではなく賃金の計算期間です。例えば6ヶ月通勤定期代を年2回支給した場合は、各月分を賃金総額に含めます。また、賞与という名称でも支給額が予め確定しているものは各月分を賃金総額に含めます。

(※15)3ヶ月の算定期間から該当する日数を除くとともに、賃金総額からその間の賃金を除きます。

雇入れ後3ヶ月未満の者の平均賃金は、雇入れ後の期間とその期間中の賃金総額で算出します。この場合も賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から起算しますが、直前の賃金締切日から起算すると一賃金計算期間に満たない場合は算定事由が発生した日の前日から起算します。

平均賃金の最低保障

賃金が日給、時間給、出来高払制その他の請負制の場合は、3ヶ月の賃金総額を実際の労働日数で割った金額の60%を最低保障額とする規定があります。最低保障ですから、通常の平均賃金の計算と両方を計算し、高い方が平均賃金となります。

端数処理

平均賃金を計算する場合は1銭未満は切捨てることができます。(逆に言えば、1銭以上の端数を切り捨てることは認められません。)そして平均賃金を基に実際に休業手当や解雇予告手当等を計算する場合は、①労使間で特約がある場合はその特約に従い、②特約がない場合は50銭未満を切捨て、50銭以上を切上げます。

ちなみに労災保険法(※16)では、保険給付の基準として給付基礎日額を用いますが、その額は原則、平均賃金に相当する額とされ(同法8条)、その計算においては1円未満の端数を切り上げることになっています(同法8条の5)。

以上は一例ですが、給与関係では金額や時間に関する端数処理に細かいルールが色々とあります。詳細は各手続の解説に於いてカバーしていきますが、端数処理に決まりがあることは意識しておく必要があります。

(※16)正式名称は、労働者災害補償保険法です。

以上