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労働時間のルール

初回出稿日:2024年6月23日

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法定労働時間 所定労働時間 

特例措置対象事業場

変形労働時間制 フレックスタイム制

みなし労働時間制

法41条該当者

高度プロフェッショナル制度

本記事では、労働時間に関する原則と例外について解説します。

原則

事業者は、労働者を休憩時間を除き1日8時間、1週40時間を超えて労働させることは禁止されています(※1)。これは法律で規定する労働時間であり、法定労働時間といいます。事業者が独自に(法定労働時間内で)決める所定労働時間とは区別されます(※2)

法定労働時間を超えて労働させる場合には、36協定(※3)を締結し労働基準監督署へ提出した上で、法定時間外労働に対して割増賃金の支払が義務付けられています(※4)。(所定時間外労働については、法定時間内である限り、割増賃金を払うかどうかは事業所の規定によります。)また、36協定を結んでも残業時間には一定の制限があります(※3)

なお、週40時間の法定労働時間をチェックする際の1週間の起算日は別段の定めのない限り日曜日とされます。

(※1)労働基準法32条。1日の上限と1週間の上限の両方を守る必要があります。

(※2)もちろん所定労働時間を法定労働時間と同様(1日8時間、1週40時間)に定めることもできます。

(※3)36協定、及び36協定を結んだ上での残業時間の上限などについては別記事「労使協定について」をご参照。

(※4)割増賃金のルールについては別記事「割増賃金の原則」をご参照。

例外

上記の原則には、以下の例外があります。

(1)特例措置対象事業場1日8時間、1週44時間まで
(2)変形労働時間制後述
(3)みなし労働時間制後述
(4)法41条該当者後述
(5)高度プロフェッショナル制度後述

(2)以降はそれぞれ以下で解説しますが、(1)の特例措置対象事業場とは、常時10人未満の労働者(パート、アルバイト等を含む)を使用する商業、映画・演劇業等の事業場を指します(※5)。10人未満の労働者は、企業全体ではなく、工場、支店、営業所など個々の事業場が対象です。特例措置対象事業場であっても18歳未満の年少者は、原則通り1日8時間、1週40時間までとなります。

(※5)商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業。詳細は厚生労働省徳島労働局「法定労働時間」などをご参照ください。

変形労働時間制

変形労働時間制とは、1日8時間、1週40時間といった画一的な時間制限に代わり、事業の繁閑にある程度柔軟に対応できるよう、一定期間を平均して労働時間が1週40時間(特例措置対象事業場は一定の場合で44時間)に収まる限り、一時的に1日8時間、1週40時間を超えた労働も許容する仕組みです。

労働基準法では、以下の4種類の変形労働時間制を規定しています。以下、順に解説します。

① 1ヶ月単位の変形労働時間制
② 1年単位の変形労働時間制
③ フレックスタイム制
④ 1週間単位の非定型的変形労働時間制
  • まず、①と②の違いは、週労働時間が平均して40時間(特定措置事業場で1ヶ月単位の変形労働時間制の場合は44時間)を超えないようにする期間の長さです。いずれも1日8時間又は1週40時間を超える日又は週を特定し労使協定で定めます(※6)。②の方が労働者の負担が増す可能性があるため、より細かい制限(詳細省略)があります。
  • ③は、就業規則(またはそれに準ずるもの(※7))により「(対象労働者の)始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる」と規定し、更に労使協定(※8)で所定事項を定めます。そして労使協定に定めた清算期間(最大3ヶ月)で平均して週40時間(特例措置対象事業場で清算期間が1ヶ月以内の場合は44時間)以内となるように運用します。
  • ④は、日々の業務に著しい繁閑の差が生じることが多く、繁忙日を予め特定することが難しい小売業、旅館、料理店又は飲食店で、常時使用する従業員が30人未満の事業が採用できる制度です。労使協定(※9)を結び、1週間の各日の労働時間を週の開始前に書面で通知することで1日10時間まで労働させることができます(週40時間内は守る必要があります(※10))。

尚、変形労働時間制は、法定労働時間に柔軟性を持たせる特例であり、時間外労働や割増手当の適用がなくなるわけではありません。当然ながら残業時間の上限規制(通常、月45時間且つ年360時間以内。1年単位の変形労働時間制では、月42時間且つ年320時間以内。)も適用になります。

(※6)1ヶ月単位の場合、就業規則(又は準ずるもの)による規定でも可。労使協定で定めた場合、就業規則(又は準ずるもの)でも必要事項を定める必要があります。労使協定、(変更後の)就業規則は労働基準監督署への届出も必要です。就業規則については、別記事「就業規則に関する必要最低限の知識」をご参照。

(※7)就業規則のない常時10人未満の労働者を使用する事業所の場合、書面にて労働者に周知させる必要があります。

(※8)清算期間が1ヶ月以内であれば労働基準監督署への届出は不要、1ヶ月超であれば必要です。

(※9)労働基準監督署への届出が必要です。

(※10)この場合、特例措置対象事業場も週所定労働時間は40時間になります。

みなし労働時間制

みなし労働時間制とは、実際に働いた時間にかかわらず、一定の時間を働いたものとみなす制度で、労働基準法により以下の3種類が規定されています。但し、これらは労働時間の算定に関する規定であり、労働時間そのものの制約や、休憩、休日などの規定、残業相当部分の割増賃金や残業上限などを排除するものではありません。従って、みなし労働時間制を採用する場合でも、労働時間や休日の管理は必要であり、労働時間の客観的な把握も義務付けられています(※11)

 ①事業場外労働のみなし労働時間制②専門業務型裁量労働制③企画業務型裁量労働制
対象者労働時間の全部又は一部につき、事業所外で業務に従事する労働者 例)外回りの営業マン、マスコミの記者、在宅勤務者など
使用者の指揮監督が及ばず労働時間の算定が難しい場合に限る
例えば、訪問先や帰社時間について指示を受けていたり、携帯電話で常時指示を受けている場合は対象外
クリエイティブな仕事や専門性の高い仕事など、労働時間管理にそぐわない業務の従事者
厚生労働省令で定める19業務に限定 例)新製品・新技術の研究開発者、弁護士など(詳細は厚生労働省「その他:専門業務型裁量労働制」ご参照
事業の企画、立案、調査、分析の業務で、業務の性質上、遂行手段や時間配分を大幅に従事者に委ね、使用者が具体的指示をしない業務の従事者
適用するには対象労働者の個別の同意が必要
採用方法原則、労使協定は不要
「業務遂行に通常必要とされる時間」を労使協定で定めることも可能(その場合、労使協定で定める時間が法定労働時間を超える場合は、労使協定を労働基準監督署に届出る)
労使協定で、対象業務、みなし労働時間、健康・福祉確保措置などを定め、労働基準監督署へ届出る労使委員会(※12)で対象業務や対象労働者の範囲、みなし労働時間、健康・福祉確保措置などを審議し5分の4以上の合意により決議し、労働基準監督署へ届出る
労働時間原則、所定労働時間労働したとみなす
但し、「業務遂行に通常必要とされる時間」が所定労働時間を超える場合は、その時間労働したとみなす
見なし労働時間に加え事業所内の労働時間がある場合は、両者を合計し、法定労働時間を超えた時間は割増賃金の対象となる
労使協定で定めた時間労働したとみなす決議で定める時間労働したとみなす

(※11)「労働時間の客観的な把握」については、厚生労働省「客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました」ご参照。

(※12)当該事業場の使用者及び労働者を代表する者を構成員とし、賃金、労働時間その他労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に意見を述べることを目的とする委員会詳しくは別記事「労使協定について」ご参照。

法41条該当者

労働基準法41条は、法定労働時間、法定休日、及び休憩についての規定が適用除外となる労働者を定めており、具体的には以下が該当します。

1号該当者農業、畜産業、養蚕業、水産業の従事者(※13)
2号該当者管理監督者(※14)及び機密事務取扱者(※15)
3号該当者監視労働者(※16)又は断続的労働従事者(※17)であって使用者が労働基準監督署の許可を得たもの

(※13)天候等、自然条件に影響を受ける事業で、画一的な労務管理が適さないためとされます。林業は含まれません。

(※14)管理監督者に該当するかは、単に役職名によるのではなく、職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態で判断すべきとされ、注意が必要です。詳細は厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」ご参照。

(※15)秘書その他業務が経営者又は監督若しくは管理の地位にある者の活動と一体不可分であって、出社退社などについて厳格な制限を受けない者、とされています。

(※16)原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、業態として心身の疲労または精神的緊張の少ない労働者、とされています。(交通関係、プラント等の計器類の監視、危険な場所での監視は含まれないとされます。)

(※17)休憩は少ないが手待ち時間が多い業務であり、修繕係等、通常は業務閑散であるが事故に備えて待機するものや、寄宿舎の賄人等で手待ち時間が実作業時間を上回るものなどとされています。

  • 法41条該当者の場合、時間外労働や休日労働の割増賃金も適用ありません。
  • 但し、深夜労働については適用除外にはなりません。(22時から翌5時までの労働には割増賃金を支払う必要があります。)
  • 年次有給休暇(※18)についても適用除外はなく、通常の労働者と同様に取得させなくてはなりません。

(※18)年次有給休暇のルールについては別記事「法定休暇のルール」ご参照。

高度プロフェッショナル制度

高度プロフェッショナル制度は、2019年4月1日施行の改正労働基準法によって新設された比較的新しい制度で、高度な専門知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者に対し、労働基準法の労働時間、休日、休憩、及び深夜労働の割増賃金の規定を適用除外とするものです。

この制度は、上述の専門業務型裁量労働制と比較すると、後者が労働時間の算定に柔軟性を持たせる一方、労働時間そのものの制約や、休日、休憩等の規定は適用される(年収要件もない)といった点で違いがあり、また、法41条該当者に適用される深夜労働の割増賃金も適用されない点で、労働者への負担がより大きくなり得る制度と言えます。

具体的には以下の要件を満たす必要があります(※19)

対象労働者

次のいずれにも該当する労働者。

  • 1年間の賃金が1,075万円以上(基準額は厚生労働省令による)
  • 職務が明確に定められていること(対象労働者による書面への署名などによる合意に基づくこと)
  • 対象者は、対象業務に常態として従事していること(対象業務以外にも常態として従事している者は対象外)
対象業務

高度な専門知識等を必要とし、労働時間とその成果との関連性が通常高くないと認められる次の5種類の業務。但し、業務時間に関し使用者から具体的な指示(業務量に比して著しく短い期限の設定など、実質的に業務時間に関する指示と認められるものを含む)を受けて行うものを除く。

  1. 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  2. 資産運用等の業務
  3. 有価証券分析、投資アドバイザー業務
  4. 事業運営や業務改革等のコンサルティング業務
  5. 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務
採用方法

労使委員会(※20)による5分の4以上の議決により、以下の事項につき決議し、労働基準監督署へ届出る。

  1. 対象業務の範囲
  2. 対象労働者の範囲
  3. 健康管理時間(※21)の把握措置
  4. 休日確保措置
  5. 労働時間等に関する選択的措置
  6. 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
  7. 本人同意の撤回に関する手続
  8. 苦情処理措置
  9. 不利益取扱いの禁止(※22)
  10. その他厚生労働省令で定める事項

加えて、使用者は上記決議項目のうち、3.健康管理時間の状況、及び 4. から 6. の措置の実施状況を、決議が行われた日から起算して6ヶ月以内ごとに、労働基準監督署に報告する。

(※19各要件の詳しい内容は、厚生労働省「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」などをご参照ください。

(※20)当該事業場の使用者及び労働者を代表する者を構成員とし、賃金、労働時間その他労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に意見を述べることを目的とする委員会詳しくは別記事「労使協定について」ご参照。

(※21)社内、社外を含め実際に働いた時間を把握する方法を労使委員会で決議しなければなりません。労働時間にとらわれない制度に「労働時間」という言葉は適さないので、「健康管理時間」と定義されています。

(※22)使用者は、同意しなかった労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。

以上