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本店の移転

初回投稿日:2025年4月17日

本記事では、会社の本店の移転に伴う手続について解説します(※1)。尚、本記事でも会社の種類としては、株式会社又は合同会社のいずれかを想定しています。

本店の移転に伴う手続は、移転前後の法務局の管轄区域(※2)と、定款変更の必要性によって、以下の3種類のパターンに分けておくと解りやすくなります。

【表1】本店移転のパターン

同じ法務局の管轄区域内での移転であり、定款変更を要しない場合(※3)
同じ法務局の管轄区域内での移転であるが、定款変更を要する場合(※4)
他の法務局の管轄区域へ移転する場合

(※1)移転そのもの(不動産取引、設備関係、引越の手配など)ではなく、移転に伴い必要となる決議、登記関係、税務関係、社会保険関係などの手続についてカバーします。また、許認可等が必要となる事業に関する手続もカバーしておりませんので、ご注意ください。

(※2)法務局の管轄は、法務局「管轄のご案内」をご参照。商業・法人登記と不動産登記では管轄区域が異なります。東京23区は、東京法務局の管轄区域と出張所の管轄区域に分かれるので注意が必要です(千代田区などは東京法務局、渋谷区と目黒区は渋谷出張所、など)。

(※3)定款において本店所在地を最小行政区画までの記載にとどめている場合(例、「当会社は、本店を東京都新宿区に置く。」)であって、その区画内で移転するとき。

(※4)同じ法務局の管轄区域内の移転であるが、定款において本店所在地を地番まで記載している場合(例、「当会社は、本店を東京都新宿区○丁目○番地○号に置く。」)、又は、定款において本店所在地を最小行政区画までの記載のとどめている場合であってその区画外へ移転するとき。

本店移転の決議

本店の移転についての決議は、株式会社と合同会社の違い、株式会社の場合は取締役会の有無、及び表1の分類により以下のようになります。

【表2】本店移転に係る決議等

会社の形態表1決定方法
株式会社取締役会
設置会社
取締役会決議(定款に別段の定めある場合はそれに従う)
② ③定款変更につき、株主総会の特別決議(※5)
本店移転につき、取締役会決議(定款に別段の定めある場合はそれに従う)
取締役会
非設置会社
取締役の過半数の一致(又は株主総会の普通決議(※6)
② ③定款変更につき、株主総会の特別決議(※5)
本店移転につき、取締役の過半数の一致(又は株主総会の普通決議(※6)
合同会社業務執行社員の過半数の一致(定款に別段の定めある場合はそれに従う)
② ③定款変更につき、総社員の同意(定款に別段の定めある場合はそれに従う)
本店移転につき、業務執行社員の過半数の一致(定款に別段の定めある場合はそれに従う)
  • 表1の①の場合は、単に、本店の移転についてのみ決議すればよく、原則、株式会社では取締役(会)、合同会社では業務執行社員で決定することになります。
  • 表1の②、③の場合は、本店の移転に加え、定款変更(「本店の所在地」の変更)の決議が必要となり、そのためには、株式会社は株主総会の特別決議、合同会社は、原則、総社員の同意によります。
  • 表1の②、③において、定款変更について決議する場合、決議内容は定款変更に係る部分に限定するのが通常です(※7)。つまり、移転日や(定款で最小行政区画までの記載にとどめている場合の)地番などの詳細は、取締役(会)や業務執行社員によって別途決議します。

(※5)議決権の過半数(定款の定めにより3分の1まで引下げ可)を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上による決議。

(※6)議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の過半数による決議(定款に別段の定めある場合はそれに従う)

(※7)特に、取締役会設置会社の場合、株主総会は会社法に規定ある事項及び定款に定める事項に限り決議することができる(会社法295条)ため、本店の移転自体は原則取締役会で決議することになります。

本店移転の登記手続

本店の移転については、その効力発生日から2週間以内に登記申請を行わなければなりません(※8)

まず、本店の移転日については、上述の通り取締役(会)や業務執行社員によって決議するのが通常ですが、決議した移転日と実際の移転日に関連し、以下の点に注意が必要です。

  • 決議した移転日と実際の移転日が一致する場合は、その一致する日が移転の効力発生日であり、その2週間以内に登記申請します。この場合は何ら問題はないでしょう。例えば、その一致する日が令和7年4月10日だとすると、登記申請書には以下のような記載になります。
登記すべき事項令和7年4月10日本店移転(←移転日)
本店 ○県○市○町○丁目○番地○号(←移転後の本店所在地)
  • 次に、決議した移転日と実際の移転日が一致しない場合は、両方を満たしたときが移転の効力発生日となります。例えば、取締役会設置会社が令和7年2月14日に開催した取締役会で「令和7年4月30日までに本店を移転する」旨決議し、実際の移転が令和7年4月10日であった場合は、令和7年4月10日が移転の効力発生日となり、登記申請書への記載は上と同様になります。
  • 同様なケースで、実際の移転日が令和7年4月4日で、その後令和7年4月10日に開催した取締役会で「令和7年4月4日に本店移転したが、本日これを承認する」旨決議した場合も、令和7年4月10日が移転の効力発生日となり、登記申請書への記載は上と同様になります。
  • さらに同様なケースで、取締役会にて「令和7年4月4日までに本店を移転する」旨決議したものの、実際の移転日が令和7年4月10日にずれ込んだ場合は、実際の移転日が決議した条件を満たしていないので、改めて決議しなおす必要があります。

次に、実際の登記手続へ話を進めますが、登記手続は表1の①及び②(法務局の管轄内での移転)の場合と、表1の③(法務局の管轄外への移転)の場合で違ったものになります。

(※8)期限を過ぎてしまった場合、会社の代表者に対して100万円以下の過料が科される可能性があるので注意しましょう(会社法976条)。

法務局の管轄内での移転(表1の①、②)

  • 所轄の法務局へ本店移転登記申請書及び添付書類を提出します。
  • 登記申請書様式、添付書類、記載例等、詳細は以下をご参考ください。
株式会社の場合法務局「商業・法人登記申請手続:株式会社:商号・目的の変更、本店移転」
「株式会社本店移転登記申請書(管轄登記所内移転)」
合同会社の場合法務局「商業・法人登記申請手続:持分会社:商号・目的の変更、本店移転」
「合同会社本店移転登記申請書(管轄内移転)」
  • 申請は、登記・供託オンラインシステムによる「オンライン申請」又は「QRコード付き書面申請」(書面による登記申請の一部をオンラインで実施するもの)で行うことも可能です。登記・供託オンラインシステムのサービスメニュー、利用要件などは「商業登記関係のオンラインサービス」をご参照ください。

法務局の管轄を超えた移転(表1の③)

  • 移転前及び移転後それぞれの本店所在地の所轄法務局へ、本店移転登記申請書を提出する必要があります。
  • 但し、書類提出は別々に行うのではなく、2つともまとめて移転前の所轄法務局へ提出する必要があります(「経由同時申請」といます)(※9)。提出された書類は、まず移転前の所轄法務局において審査し、問題がなければ移転先の所轄法務局へ移転後の登記申請書類が送付されます。そして移転先の所轄法務局においても審査の結果問題がなければ、ここで初めて登記が実行されます。移転前の所轄法務局でも、この時点で(移転先の所轄法務局からの連絡を受けて)登記を実行します。
  • 本店移転の決議に関する添付書類(株主総会議事録、取締役会議事録、取締役決定書など)は、移転前の所轄法務局宛の申請書に添付し、移転後の所轄法務局宛の申請書には添付不要です。(代理人に委任する場合の委任状は、それぞれの申請書に添付する必要があります。)
  • 本店移転以外に、役員変更や社名変更など他の登記事項がある場合は、移転前の所轄法務局へ提出する登記申請書へ記載し、「株式会社変更・本店移転登記申請書」(株式会社の場合)などとします。この場合、移転先への申請書には本店移転のみ記載し、「株式会社本店移転登記申請書」(同)のままとします。移転先の登記所には、この時点でまだ登記簿がないため、移転登記の実行後に他の変更申請の内容が反映されることになります。
  • 移転後の所轄法務局へは、同時に(代表取締役、代表社員の)印鑑届書を提出する必要があります。
  • 登記申請書様式、添付書類、記載例等、詳細は以下をご参考ください。
株式会社の場合法務局「商業・法人登記申請手続:株式会社:商号・目的の変更、本店移転」
「株式会社本店移転登記申請書(管轄登記所外移転)」
合同会社の場合法務局「商業・法人登記申請手続:持分会社:商号・目的の変更、本店移転」
「合同会社本店移転登記申請書(管轄外移転)」
  • 申請は、登記・供託オンラインシステムによる「オンライン申請」又は「QRコード付き書面申請」(書面による登記申請の一部をオンラインで実施するもの)で行うことも可能です。登記・供託オンラインシステムのサービスメニュー、利用要件などは「商業登記関係のオンラインサービス」をご参照ください。尚、オンライン申請で経由同時申請を行うには、「連件」という設定をして申請書等を送信する必要があります(詳しくは「操作手引書」にてご確認ください)。

(※9)商業登記法51条1項及び2項の規定によります。

その他の手続

まず、税金、社会保険関係の手続については、下表3をご覧ください。

【表3】税金、社会保険関係の手続

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手続分野提出書類提出先
期限・詳細リンク・オンライン申請方法など
① 国税異動届出書所轄税務署
・税務上、本店又は主たる事務所の所在地を納税地といい、納税地が変わるときには異動届出書を提出します
・納税地の変更に伴い所轄の税務署が変わる場合は、変更前の所轄税務署へ異動届出書を提出します
・期限:変更後速やかに
・詳細は国税庁「異動事項に関する届出」をご参照
・オンライン手続は e-Tax(※10)
② 地方税異動届都道府県税事務所、市区町村
・納税地が変わるときには、基本的に新旧両方の都道府県税事務所、市区町村へ異動届を提出します
・詳細は各自治体のHP等をご参照
・期限:各自治体の定めによる
・オンライン手続は eLTAX(Web版 e-Taxを利用して①からの連携も可能)
③ 労働保険❶ 労働保険名称、所在地等変更届
❷ 雇用保険事業主事業所各種変更届
一元適用事業(※11)の場合
労働基準監督署へ❶を、公共職業安定所へ❷及び❶の控えを提出
二元適用事業(※11)の場合
労働基準監督署へ❶を、公共職業安定所へ❶及び❷を提出
・移転により管轄が変わる場合は、移転後の所在地を管轄する労働基準監督署、公共職業安定所へ提出します
・期限:変更の翌日から10日以内
・詳細は厚生労働省「雇用保険事務手続きの手引き」(第3章 適用事業所についての諸手続き)をご参照
・届出様式などは各提出先へご照会ください
・❷ は、ハローワークインターネットサービス「雇用保険事業主事業所各種変更届」でも届出様式が入手できます
・オンライン手続は e-Gov
④ 社会保険健康保険・厚生年金保険
適用事業所 名称/所在地 変更(訂正)届
年金事務所
・移転により管轄が変わる場合は、移転前の所在地を管轄する年金事務所へ提出します
・期限:移転日から5日以内
・詳細は日本年金機構「適用事業所の名称・所在地を変更するとき(管轄内の場合)の手続き」、又は日本年金機構「適用事業所の名称・所在地を変更するとき(管轄外の場合)の手続き」ご参照
・オンライン手続は e-Gov
(協会けんぽではなく)健康保険組合加盟の場合は、健康保険組合へも別途届出を提出する必要があります(詳細は各健康保険組合へご照会ください)
  • ②の地方税関連の異動届は、自治体によって提出窓口、届出書式、提出期限、添付書類などに違いがあります。従って、窓口での手続にあたっては必ず自治体のホームページなどで最新の情報をご確認ください。多くの自治体では、ホームページで届出書式等をダウンロードできるようになっています。一方、オンライン手続では eLTAX が利用できるほか、Web版 e-Tax を利用して①の国税用の届出と同時に地方税用の届出を作成し eLTAX 経由で提出することも可能です。
  • オンライン手続の各サービスの概要については、「行政のオンライン手続について」をご参照ください。

その他、銀行届・取引印の変更、各種契約における所在地変更、角印・ゴム印、名刺、パンフレット、HPなどの変更、取引先への連絡等も忘れずに行いましょう。

(※10)e-Taxには、ソフトウェアをインストールする e-Taxソフト(OSは Windows のみ。Mac OS では利用できません。(2025年4月現在))と、ブラウザで利用できる Web版 e-Tax がありますが、異動届出書のオンライン提出はどちらでも可能です。

(※11)一元適用事業、二元適用事業の区別については、「労働保険の加入手続」をご参照ください。

以上