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事業所の移転

初回投稿日:2025年4月22日

本記事では、個人事業主が事業所を移転する場合の手続について解説します(※1)

(※1)移転そのもの(不動産取引、設備関係、引越の手配など)ではなく、移転に伴い必要となる登記関係、税務関係、社会保険関係などの手続についてカバーします。また、許認可等が必要な事業に関する手続についてもカバーしておりませんので、ご注意ください。

登記変更手続

そもそも個人事業では登記を行うかどうかは任意であり、登記する場合でもその内容は会社の登記とは別に規定された、「商号の登記」などになります(※2)。従って、ここでの手続は、「商号の登記」を行なっている個人事業主がその「営業所」を変更する手続ということになります。

(※2)(個人商人向けの)「商号の登記」では、1.商号、2.営業の種類、3.営業所、4.商号使用者の氏名及び住所、の4項目を登記します(商業登記法28条2項)。また、個人商人は、「商号の登記」以外に、「未成年者登記」、「後見人登記」、「支配人の登記」を行うことができます。一方、会社の商業登記については会社法に規定されており、商業登記法28条等は適用除外になっています(商業登記法34条2項)。

(1) 営業所を同一登記所の管轄区域(※3)内で移転する場合

管轄登記所へ、「商号の営業所移転登記申請書」を提出します。登記すべき事項として「新営業所の所在地」、「営業所を移転した旨」及びその「年月日」を記載します。

【図1】同一登記所の管轄区域内で移転する場合の登記申請書(1枚目)記載例

(2) 営業所を他の登記所の管轄区域(※3)へ移転する場合

まず、移転前の管轄登記所へ「商号の営業所移転登記申請書」を提出し、続いて移転先の管轄登記所へ、旧所在地における登記事項証明書を添付して「商号の営業所移転登記申請書」を提出します。移転先の管轄登記所へ提出する申請書における登記すべき事項は、商号新設時と同様です。また、移転先の管轄登記所へは、屋号印も改めて登録(印鑑の届出)しなければなりません。

【図2】他の登記所の管轄区域へ移転する場合の移転前管轄登記所へ提出する申請書(1枚目)記載例

【図3】他の登記所の管轄区域へ移転する場合の移転後管轄登記所へ提出する申請書(1枚目)記載例

手続は、「登記・供託オンライン申請システム」(※4)でも行うことができますが、個人事業主の場合は、同システムを利用する機会は限られており、利用登録や設定の手間を考えると、窓口での手続の方がお勧めです。

(※3)法務局の管轄は、法務局「管轄のご案内」をご参照。商業・法人登記と不動産登記では管轄区域が異なります。東京23区は、東京法務局の管轄区域と出張所の管轄区域に分かれるので注意が必要です(千代田区などは東京法務局、渋谷区と目黒区は渋谷出張所、など)。

(※4)法務局関係のオンラインサービスです。詳しくは「商業登記関係のオンラインサービス」をご参照。

税金関係

まず、国税に関しては、開業時と同様、「個人事業の開業・廃業等届出書」を所轄の税務署へ提出します。

何をどこへいつまでに
個人事業の開業・廃業等届出書移転前の管轄税務署移転後1ヶ月以内

次に、地方税については、個人事業税に関連して都道府県税事務所へ「個人事業の変更届」(※6)を提出します。都道府県によって書式や提出期限が違うので、ネットで「個人事業の変更届 都道府県名」などキーワード検索してみてください(※7)。尚、現状、eLTAX(※8) では提出できないので、都道府県税事務所の窓口(郵送可の自治体もあります)で手続を行う必要があります。

(※5)国税関係のオンラインサービス。詳しくは、別記事「行政のオンライン手続について」ご参照。但し、開業・廃業等届出書の提出には Web版 e-Tax ではなく、e-Taxソフトのインストールが必要ですがOSは Windows しか対応していません。(2025年4月現在Mac OS は不可。)

(※6)書式の名称は自治体によって違いがあります。

(※7)因みに、変更届の提出を失念しても罰則はありません。個人事業税は、所得税の確定申告を行えば、課税対象者へ都道府県から納税通知書が送付され、納税はその納付書によって行う仕組みになっています。

(※8)地方税関係のオンラインサービスです。

労働保険関係

労働保険の適用事業の場合は、以下の届出を行う必要があります。

スクロールできます
提出書類提出先提出期限
① 労働保険名称、所在地等変更届一元適用事業は、労働基準監督署
二元適用事業は、労働基準監督署及び公共職業安定所
移転日の翌日から10日以内
② 雇用保険事業主事業所各種変更届公共職業安定所
  • 一元適用事業、二元適用事業の区別は、「労働保険の加入手続」をご参照ください。
  • 一元適用事業は、まず、①を労働基準監督署へ提出し、次に②及び①の控えを公共職業安定所へ提出します。
  • 二元適用事業は、①及び②を公共職業安定所へ、①を労働基準監督署へ提出します。
  • 移転により管轄が変わる場合は、移転後の所在地を管轄する労働基準監督署、公共職業安定所へ提出します。
  • 手続の詳細は、厚生労働省「雇用保険事務手続きの手引き」(第3章 適用事業所についての諸手続き)をご参照ください。また、届出様式などは各提出先へご照会ください。
  • e-Gov(※9)によるオンライン手続も可能です。
  • ②の書類は、ハローワークインターネットサービス「雇用保険事業主事業所各種変更届」でも届出様式を入手できます。

(※9)デジタル庁が運営する社会保険等のオンラインサービスです。詳細は、「行政のオンライン手続について」をご参照ください。

社会保険関係

社会保険の適用事業所の場合は、以下の届出を行う必要があります。

提出書類提出先提出期限
健康保険・厚生年金保険 適用事業所所在地・名称変更届年金事務所移転後5日以内

(※10)デジタル庁が運営する社会保険等のオンラインサービスです。詳細は、「行政のオンライン手続について」をご参照ください。

その他

以上のほか、銀行届・取引印の変更、各種契約における所在地変更、角印・ゴム印、名刺、パンフレット、HPなどの変更、取引先への連絡等も忘れずに行いましょう。

以上